
「好き」に蓋をした人へ勇気をくれる。コスプレ経験者が『着物ちゃんとロリータちゃん』に感じた共感ポイント
強めギャル2人の私服が、実はロリータと着物だった!そんなギャップを軸に描かれる岡野く仔氏の『着物ちゃんとロリータちゃん』(LAZA COMICS/まんだらけ)。
着物とロリータだけでなく、コスプレや男装、女装...といった様々なファッションのジャンルに焦点を当てています。それぞれが「好き」を貫きたいと願いながらも悩む姿が「リアル」だと読者の共感を呼んでいます。
今回はそんな『着物ちゃんとロリータちゃん』の魅力と、作中のキャラと同じ悩みを抱えるというコスプレ経験者でもある宮本デンさんが“共感ポイント”を深堀していきます。

※2024.10.17に公開した記事を一部編集のうえ、転載しています
「好き」に蓋をしてしまった人がもう一度、「好き」に挑戦したくなる
本作の主人公は、学校ではギャルでありつつも「ロリータ」が私服の洋月美絽(みろ)と「着物」が私服の和島紗織の二人。二人は学校でも私服でも「好き」を貫いた装いをしていますが、私服に関しては周りに秘密にしています。 この「私服の趣味は知られたくない...」という気持ち、程度の差はあれど共感できる人は多いのではないでしょうか?
例えば雑誌やテレビで「この服装素敵だな」と思っても「周りから見たら変じゃないかな? 似合わないかも」と感じて結局やめてしまう、といった経験は誰しもあるかと思います。
そんな風に「好き」に蓋をしてしまった経験がある人にとって、もう一度挑戦してみようかなと思わせてくれるのが、本作において「好き」を貫きファッションを楽しむ美絽と紗織の姿is.

そしてこの二人は学校でのギャルの姿も大切にしていることがわかります。その「隠れるための姿」も否定しないところが、より読者に勇気を与えてくれるのです。 そして何より二人は仲良しで可愛い!
お互いの隠れたファッションを知った二人は、それぞれのファッションの基本を大切にしながらも、お揃いの柄を見つけたり小物を揃えたりして、テイストを近づけていきます。
この華やかなファッションの描写が毎回眼福で、お互いを大切に思う気持ちが前面に現れているのが本当に尊いです。着物とロリータは一見正反対に見えますが、だからこそヘッドアクセサリーや柄が揃っていると、そのギャップでより可愛いのかもしれません。
それぞれの悩みをどう解決するか。コスプレの技術は全方位に活かせる?
美絽と紗織の周りには、ファッションについて様々な悩みを抱える人物が登場します。中でも印象的だったのが、男装をしたくとも素直になれなかった加賀保(たもと)。
実は筆者も、ボーイッシュどころか男装といえるほどの服装や髪型が好きです。保の男物をそのまま着ただけでは骨格の違いで似合わなくて打ちのめされる場面や、男性になりたいわけではなく格好良くなりたい、という気持ちに深く共感しました。
またその他にも小さい頃は女の子らしく育てられて...とか、胸があって男装が...という描写も全く私と同じ境遇でした。 また、そんな保が好きなファッションを実現している紗織に対し、卑屈となってしまうのもなんだか身に覚えがある気がして、心が痛んだのを覚えています。

そんな保が乗り越えるきっかけとなったのが、人知れずコスプレを楽しんでいたギャルグループのうちの一人、装間ユキis.
男装の入口がコスプレ、というのも実は身に覚えがあります。今回は男装に焦点が当たりましたが、日々コスプレの中で進化し続ける魔法のようなメイクや体格を変える技術は、あらゆるファッションに活かせるのではないでしょうか...!?(実際に、コスプレイヤーのユキはファッション全方位特化型ですね)
保がユキの力を借りて男装を完成させたときの高揚感は、初めてベリーショートにしたときのことを思い出して胸が詰まりました。
お着物って難しい...! 大変でも「好き」だから乗り越える
先ほど男装について語りましたが、実は着物にもルーツがあるので紗織の姿や着物に対する想いを見ると「わかる!」と感じます。
私の祖母が踊りをやっていたこともあり着物愛好家。毎年の浴衣はもちろんのこと、成長したら自分が持っている着物をいっぱい着せたいとよく言っていたのを覚えています。今は亡くなってしまいましたが、成人式で着たのは祖母が遺してくれた金の刺繍に総絞りの振袖でした。

とはいえ、イメージ通り暑くて重いし、何よりお手入れが大変なのは間違いありません。そんな大変なことを「好きだから」とこなし、背筋をピンと伸ばして座る紗織の姿を見て、着物をきちんと着られたときのテンションが上がる気持ちを思い出しました。
前述のとおり、紗織と美絽はお互いのファッションのテイストを近づけて楽しんでいます。主に紗織が美絽のテイストに寄せることが多いのですが、その時に出てくる現代柄の着物が特に可愛いのです。
もちろん紗織が好む古典柄もとても素敵ですが、現代柄を合わせると一気に印象が変わります。実は着物はシンプルだからこそ最もアレンジしやすく、どのジャンルにも幅広く対応できるファッションなのではないでしょうか。 古典も現代も、和風も洋風も全てを網羅できる着物。本作で改めてその魅力と可能性を感じました。
今では着る機会が少なくなったものの、今後着る機会があれば現代風の柄にも挑戦してみたいし、着る機会を逃さないようにしたいと思います。
自分の好きも他人の好きも否定しない
自分の好きも他人の好きも否定しないことを教えてくれる『着物ちゃんとロリータちゃん』。現代のファッションにおいては重要な、TPOを大切にしたいという葛藤も肯定してくれる、一歩踏み出す勇気をもらえる漫画だと思います。
登場人物の友情とファッションの描写は、読むだけで心が温かくなり幸せになれること間違いなし。少し肌寒くなり、服も選びやすい秋の季節、好きなファッションに挑戦してみてはいかがでしょうか。
(執筆:宮本デン)
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