『神風怪盗ジャンヌ』日下部まろんはなぜ私の“永遠”なのか? いま再読したら種村有菜先生が伝えたい「乙女に大切なこと」に気付いた
少女漫画雑誌「りぼん」が今年、創刊70周年を迎えました。これを記念して、今年の8月には渋谷で「りぼんフェス」が開催! フェスでは、1990年代を彩るレジェンド作品も数多く展示されましたが、その中の一つが種村有菜先生の『神風怪盗ジャンヌ』です。
皆さんご存知、りぼんの伝統と歴史を変えた作品ですね。その影響力の大きさから、少女漫画史は種村有菜以前・種村有菜以後に分かれたとか(個人の意見です)。
そんなわけで今回は『神風怪盗ジャンヌ』の素晴らしさを、振り返ってみたいと思います。ゲームスタートっ★ ※一部ネタバレを含みます
明らかに“何かが違う”…衝撃的だったヒロイン
『神風怪盗ジャンヌ』は怪盗・変身・ラブ・学園・転生を織り交ぜた意欲的な作品です。私は小学4年生の頃、本誌で1話を読んで主人公・日下部まろんのあまりの可愛さに衝撃を受けました。
クルクルの巻き髪に、両サイドはお団子、M字に盛り上がった前髪という斬新なヘアスタイル。さらに袖がパフスリーブになったレイヤードワンピースという、奇抜なデザインの制服。従来の「りぼん作品」とは明らかに何かが違う――。そう感じました。

和洋折衷のド派手な怪盗が、新体操のリボンを武器に「チェックメイト」と言いながら、絵画に取り付いた悪魔を回収するなんて、一体どうしたら思いつくのでしょうか? 種村有菜先生は本当に天才だと思います。
「これ、読んで大丈夫なのか…?」と数々の(刺激的な)名シーンにドキドキした思い出
そのまろんは女の子の憧れをすべて集めて塗り固めたようなキャラクターです。成績優秀で容姿端麗、新体操部ではエースを務め、もちろん男たちからモテモテ。なのに無駄に前に出ようせず、“圧倒的人気者なのに控えめ”なところもいい。
でも変な男は寄ってきません。なぜなら高嶺の花だから!
(水無月くんが変な男枠だけど、彼はコメディリリーフなのでノーカウント。あと大人になってから彼は青年実業家になっているので、やはり高いポテンシャルを持っている)
なんてたって、まろんの恋の相手・名古屋稚空は、大病院の跡取り息子です。実家は、ほぼ城。一人暮らしの部屋も、高校生男子とは思えないくらい、センスが良くて綺麗。
そして女子がキャーキャー言うイケメン。
身長175センチ。
軽口叩いて、ちょっと意地悪もしてくるけど、2人きりになるとデレる。
デートではエスコートしてくれるし、ときに強引(←重要)。
プレイボーイだったけど、まろんに本気になってからは、超一途。
ハイスペすぎだろ。

昔は、稚空って軽薄なイメージでそんなに好きじゃなかったけど、今は全然結婚してもいいです。こんな相手に高校時代に出会うことができて、20代前半で結婚、出産できる人生って、とんでもない勝ち組です、まろん。
というか、まろんも父親がフランスで仕事できるレベルの建築家なので、相当裕福ですよね。住んでるマンションもデカいし。
そんな稚空のハイライトは、まろんとのデート回!(5巻) 自分の気持ちに素直になれなず、戸惑うまろんをそっと抱き上げ、「まろんは軽いな 羽がはえてるみたいだ」とかます場面は、誰が何と言おうと作中屈指のロマンティックシーンです。
『ジャンヌ』にはいくつもの名シーンがありますが、心に残った点を他にも挙げるとしたら、保健室でのキスシーンです(5巻)。
ライバル・怪盗シンドバッドの正体であり、同級生でもある名古屋稚空と恋仲にあるまろん。しかし、信頼していたフィンの裏切りに深く傷ついたまろんは、稚空に当たってしまいます。保健室のベッドの上でエキサイトするまろんを落ち着かせるために、稚空が強引にキス! ロマンチックかつ刺激的なシーンは、最高にドキドキしました。
『ジャンヌ』は「りぼん」において挑戦的な描写が満載の作品でもあります。悪魔騎士ノインがまろんを襲うシーン(4巻)は衝撃的で、「これ読んでも大丈夫なのか?」と思ったのを今でも忘れられません。
間一髪で助けに来てくれる稚空が、格好良かった……。プレイボーイだけど、本当は一途で熱血漢というナイスガイです。
浜崎あゆみ全盛期の空気、明るさと孤独の二面性が刺さった
そんな非の打ち所のない完全無欠の女の子・まろんですが、じつは心に深い闇を抱えています。
まろんの両親は幼い頃から不仲で、まろんを一人残してそれぞれ海外に行ってしまったのです。高校生にしてマンションに一人暮らしなのはそのため。手紙も電話もなく、毎月生活費だけ振り込んでくる両親。完全に毒親ですが、じつは悪魔に操られていたので、彼らもまた被害者でした。
とはいえ、まろんはそんなこと夢にも思っていないので、親から愛されない自分に劣等感を抱いていました。みんなの前では、明るく元気いっぱいだけど、夜は、孤独と戦う日々……。
この頃は浜崎あゆみの全盛期で、孤独を歌った曲が若者にぶっ刺さっていました。まろんの「明るく振る舞いながらも心の奥では孤独を抱えている」という姿は、時代の空気とリンクしていたように思います。

そんなまろん、5巻ではフィンの裏切りによって情緒不安定さがMAXに。「世界中の人に嫌われてる気がして怖いの」と無きながら稚空に訴えます。
――これが、乙女心にめちゃくちゃ刺さったのです!
漠然とした不安に襲われる思春期。そんな年頃に『ジャンヌ』を読んで「まろんも私と同じ気持ちなんだ……!」と共感した人は少なくないはず。私もまろんに自分を重ねては感傷的になっていました。日常で嫌なことがあっても、まろんも頑張っていることを思えばやり過ごすことができました。
なんといっても心に響いたのは、最終話(7巻収録)のモノローグ。
自分以外は敵だと思いこんでいたの
だから弱点なんて見せられなかった…
「おまえみたいなやつが一人で生きていかれるもんか」
こわくてこわくてたまらなかった
(中略)
おびえるあまりに人を傷つけてしまう私は私がきらい
みんなもそうでしょ? こんな私のことがきらいなんでしょ?
私は強いんだから! 絶対負けないんだから!
大人になった今読んでも、昔の乙女心がうずくのを感じます。孤独なのは自分だけじゃない、そう教えてくれたのが『神風怪盗ジャンヌ』でした。種村有菜先生、ありがとう。
決戦前夜、まろんと稚空が結ばれた時も衝撃的でした(驚きすぎて、そのときの光景が忘れられないのです)。「処女じゃなくても、心が気高いままなら永遠に純潔である」という主張を体現した、まろん。
この頃の種村有菜先生は20歳くらいでしょうか。そんなにも若いのに、純潔の本質を読者に問いかけるなんて、すごすぎます。子どもの頃は気づきませんでしたが、『ジャンヌ』は私たちに大切なことを教えてくれていたのです。
子どもの頃に心を撃ち抜かれて、大人になって読み返してもやっぱり最高。まろんは、これからも永遠に私の心のヒロインです。チェックメイト☆
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(執筆:中村未来)
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