見出し画像

なぜ人は推しに心を狂わされるのか?「セレブリティ崇拝」と熱狂の心理とは【推しへの“愛”を心理学で解説 #1】

偏愛カルチャーWEBマガジンとして、さまざまなコンテンツの魅力を届けているnuman。この度、オタクが推し活の中でなんとなく感じている“心の不思議”を紐解く新連載、「オタクの心理学~推しを愛する心の裏側~」をスタートします。

危険な行動を取ってしまう心理や、推し疲れと消費の心理――そんなオタクの心の内を、オタク文化を網羅的に分析した書籍『オタク・スペクトラム : オタクの心理学的研究』の著者であり臨床心理士・公認心理師の山﨑尚彦先生のご知見を交えて紐解いていく本連載。今回は、「なぜ人は推しに熱狂してしまうのか?」について聞きました。

自分でも気付けなかった感情の正体や心の仕組みを知ることで、自身の推しへの向き合い方や、推し活をするうえでの注意点についてより深く理解できるはず!

<プロフィール>
山﨑尚彦(やまざき・なおひこ)
臨床心理士・公認心理師として、精神科臨床や学生相談など、主に医療・教育分野の臨床に携わる。帝京大学医学部付属病院脳神経内科にて高次脳機能障害の研究に従事し、東京藝術大学・関東学院大学などで非常勤講師も務めつつ、筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻3年制博士課程を修了。

■『オタク・スペクトラム : オタクの心理学的研究』
(山﨑尚彦/福村出版)

定量的データと膨大なコンテンツ紹介でオタク文化を網羅的に分析する。心理臨床支援にも役立つオタク論。■公式HP

【山﨑さんからのコメント】
本書は、個人のバイアスを可能な限り排除し、データに基づく中立的な視点でオタク心理を紐解いた1冊です。どこまでが筆者の見解で、どこまでがデータなのかをしっかり区別して執筆されています。さらに、長年のフィールドワークによるエピソードも豊富に交えられているため、読み物としても楽しめる内容になっているかと思います。心理学や人文学分野への馴染みがある方以外にも、ご自身の推し活や抱える問題を客観的に見つめ直すヒントとしてぜひ活用いただきたいです。

熱狂の正体は「セレブリティ崇拝」と自他境界の曖昧さ?

――第1回目のテーマは、「なぜ『推し』に熱狂してしまうのか」。いわば他人である存在に対して、なぜオタクは夢中になってしまうのでしょうか? 心理学的な解釈を教えてください。

山﨑尚彦(以下、山﨑):
前提として、「推し」という言葉は対象や強度によって意味合いが大きく異なると考えています。世間的な「推し」の用例を見ると、人、モノ、動物、場所などの万物が対象になっており、「好き」の強度も多様です。その点で「推し」とはさまざまな「好き」を総称している言葉に過ぎないため、ここでは「実在あるいは架空の人物に対して、熱狂的な態度をとってしまう状態」に限定して話を進めたいと思います。

それを踏まえて「なぜ熱狂するのか」についてお答えすると、因果関係は不明ですが、“関連していると思われる要素”について示唆を得るために参考になる研究は豊富にあります。特に、有名人に対して一方的に強い関心を抱くことを「セレブリティ崇拝(Celebrity Worship)」と呼んで調査を実施した、数々の研究です。オタク文化で言えば声優、俳優、アイドル、VTuberなどがその対象として挙げられるでしょう。

さまざまな研究によると、セレブリティ崇拝に陥りがちな人は不安や抑うつ傾向、空想する傾向が強く、認知的な能力がわずかに低く、さらに承認欲求や自己愛が強い傾向があることが分かっています。また、スマホやギャンブル、飲酒、喫煙といったものへの依存的な問題を抱えやすいことも示されているのです。

――その人の気質や思考など、複雑な要因が絡み合っているのですね。

山﨑:
一般的に、人の心はさまざまな要因が複雑に相互作用して決まるものなので、一つひとつの“統計的な傾向”に着目することが大事ですね。熱狂を生み出す要因やメカニズムを特定するのは、たくさんのデータを集めないと困難ですが、これらの要因が複雑に相互作用して、熱狂的な態度を形成していることは想定できるでしょう。

ほかにも、推しに熱狂するあまり、「推しが叩かれると自分のことのように悲しい」と感じる人も中にはいます。精神科的な問題でも、それぞれ異なった病態ですが、自閉スペクトラム症や統合失調症、境界性パーソナリティ症などで見られるように、自分と他人の境界が曖昧になるケースは少なくありません。

推し活が悪い影響をもたらすとは限りませんが、「なぜ推しに熱狂してしまうのか」ということには、さまざまなメンタルヘルスの問題に共通した病理が深く関連しているのではないかと私は考えています。

――同じく「推しに熱狂している」人であっても、推しが2次元(アニメや漫画のキャラクター)か3次元(アイドルや俳優)かによって、推し方のスタンスが異なる印象があります。両者の違いについて、山﨑さんはどのように捉えていますか?

山﨑:
3次元の推しであっても、人気商売である以上、多少なりともいい人物像を演じている可能性を考えれば、2次元も3次元も本質的には虚構的な面が強いと思います。ですので、完全に区別はつけられないということを、前提としてお伝えしておきますね。

その上で両者における(推し活文化の)違いについて考えると、「ファンの空想が入る余地」には差があるように感じます。3次元は基本的に本人が演じた通りに受け取られるかもしれませんが、2次元は二次創作の文化が強く、空想の数だけキャラクターのバリエーションが増えていきます。何がオリジナルで何がコピーか分からなくなってしまうほど、ファンの空想が強く反映される文化なのです。

そのような文化では、自分とは相容れない空想や創作を見る機会も自然と多くなるため、それらへの不快感や敵意も生まれやすいかもしれません。

――推しへの空想が強くなると、ファン自身の心理にはどのような影響があるのでしょう。

山﨑:
空想傾向(Fantasy Proneness)」に関する研究では、空想が強い人は視覚的なイメージが強く空想を現実のものとして感じやすいと考えられています。

さらに、「アニメや漫画が好きな人は、架空のキャラクターを現実的な対象として認識しやすい」「オタク的なコンテンツに接する人は孤独感が強い傾向がある」「孤独感が強い人のほうが、ドラマの登場人物を認識するときと実在の人物を認識するときで活性化する脳領域の境界が曖昧な傾向がある」ということも、実際に研究によって示されています。

こうしたデータから間接的に推論すると、より空想が強く反映されやすい2次元を推し続けることで、頭では「現実と虚構は違う」と分かっていても、実感としての区別がつきにくくなる可能性が考えられます。

3次元を推すという行為は、推しの外見や表面的な言動だけで他人のイメージを作ってしまう「対人認知」に影響しやすい一方で、2次元を推し続けることは現実と架空の世界を区別する「現実認知」に影響してくるかもしれません。そういった部分が、両者の違いであろうというのが私の見解です。

――3次元の推し活においても、アイドルファンは俳優ファンの方と比べると、2次元オタク寄りの文化が色濃く出ている印象があります。この違いについては、どのようにお考えですか?

山﨑:
俳優は作品や場面に応じて異なる人物像(役柄)を演じるのに対し、アイドルはどんな場面でも一貫した人物像を演じるため、よりキャラクター的であるとも言えます。その点において、アイドルファンのほうが2次元オタク的な傾向が出るのは理にかなっていると思います。

ただ、俳優ファンであっても、その推しが演じるドラマの役柄に対しては、創作的(空想的)な楽しみ方をする場合もありますよね。それはあくまでも架空の世界の登場人物であるため、作品で描かれていない余白に対して、空想が入り込む余地が多いからだと考えています。

いいなと思ったら応援しよう!

numan(ヌーマン)@偏愛カルチャーWEBマガジン よろしければ応援お願いします! より読者の皆さんへ喜んでもらえるコンテンツ作りに還元します!

この記事が参加している募集