青年マンガ出版社から誕生したBLレーベル「Re;zz」が目指す、“長く愛される”作品づくり
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てているnumanによる、女性向けエンタメの裏側に迫る連載企画『エンタメビジネスの裏側:沼の作り手たち』。ユーザーが愛するコンテンツがどのような想いで作られているのか、ビジネスやクリエイティブの裏側に迫ります。
今回は、2025年4月に株式会社ヒーローズから誕生した新星BLマンガレーベル「Re;zz(リズ)」の編集者に、レーベル立ち上げから1年を迎えるこのタイミングでインタビュー。株式会社ヒーローズといえば、『ULTRAMAN』や『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』など、日本が誇るヒーローたちを題材にした青年マンガを世に送り出してきた出版社。そんな“ドがつくほどの青年マンガ出版社”から、なぜ女性に大人気のBLレーベルが誕生したのでしょうか。

お話を伺ったのは、長年BLマンガの編集に携わってきた同レーベル編集長Fさんと、営業職から未経験でレーベルを立ち上げた編集者Kさんのお二人。異例のレーベル誕生秘話や、新星レーベルだからこそ成し得る個性豊かな4作品の魅力をたっぷり語っていただきました。
そして後半(有料パート)では、新規レーベル増加による競争の激しいBL業界で生き残るための工夫、SNS時代における作家の負担増と編集者がどう向き合っていくべきなのか、単行本が高騰する中で意識していること、さらに「Re;zz」が目指す未来像に迫ります。
(取材・執筆:阿部裕華)
【告知】新星BLレーベル「Re;zz」2月28日発売の2作品は愛の救済バイブル&スパルタ教育ラブコメ!
BLレーベル・Re;zzコミックスの第二弾が2月28日(土)より発売中。
●『てんある』(著:蜂煮)
●『ひとつ屋根の下、君とあいおどる』(著:せとあめ)
第二弾は、BL界の奇才が贈る愛の救済バイブルと
一般男性×アイドルのスパルタ教育ラブコメ!
Re;zzの看板作家二人の個性あふれる作品をぜひお楽しみください。
営業から編集未経験で立ち上げたBLレーベル
――まずは、青年マンガを中心に出版されているヒーローズから、BLレーベル『Re;zz』を立ち上げるに至った経緯をお伺いできればと思います。
編集者K:
シンプルに言うと「純粋に私がBLをやりたかったから」なんです(笑)。私は最初、営業職としてヒーローズに入社しました。マンガという文化自体が大好きだったのですが、なかでも一番深くハマっていたのがBL作品で。「いつか自分も大好きなBLの制作に挑戦してみたい」という野心をずっと温めていたんです。

そして入社して数年経ったころに、会社としても新しい読者層を開拓していかなければという課題と向き合うこととなりました。ヒーローズ作品のメイン読者層は30〜50代の男性。「もっと若い世代の方や女性の読者にも、私たち(ヒーローズ)のマンガを届けていきたい」という目標があったんです。
また、紙の単行本の売り場が少しずつ変化していく中で、市場調査をしていくと、BLジャンルは当時、緩やかに右肩上がりで成長していることが分かりました。そこで、私の「好き」という情熱と、会社の「新しい読者に出会いたい」というニーズがぴったりマッチするのではないかと考え、企画を提案したのが始まりでした。会社もよく企画を通してくれたなと今でも思っていますが(笑)。
――とはいえ、未経験からの立ち上げにはご苦労もあったのではないでしょうか……。
編集者K:
そうですね……。私自身は編集の経験がなく、ただ「BLが好き」という熱意だけでスタートした状態でした。さらにBL市場は近年、数多くのレーベルがひしめく激戦区です。そんな中で、新しくBLレーベルを立ち上げるからには、ただの読者目線ではなく、ジャンルに関する専門的な知識を持つ方の力が必要不可欠だと思いました。そこで「BLに知見があり、一緒にレーベルを作ってくれる経験豊富な方」を募集したところ、運良く編集長のFと出会うことができたんです。
編集長F:
私はこれまで別の出版社でずっと、BL作品を作り続けてきました。ヒーローズの「BLレーベルを立ち上げます」という求人を見つけて、すぐに応募したんです。これまで培ってきた経験が、新しい場所で活かせるのではないかと思ったからです。

編集者K:
Fがジョインしてくれてからは、「今の時代にどんな作品を届ければ、読者の皆様に長く愛していただけるのか」というレーベルの方向性を、1から一緒に話し合って作り上げていきました。私が外側の枠を作り、中身は経験値の高い編集長と一緒に入社してくれたメンバーと一緒に詰めていったという形ですね。
――中身を築いていく中で目指した、読者層のターゲットや、作品づくりのコンセプトはありますか?
編集者K:
ターゲットについては、すでに多くのレーベルがある中でチャレンジかなとは思いましたが、あえて絞らず「間口を広げる」ことを意識しました。もちろんBL愛好家の皆さんに満足していただくことは前提として、「一つのマンガ作品として、誰が読んでも面白い!」と老若男女に思っていただけるレーベル、作品づくりを目指しています。
編集長F:
BLならではの「恋愛のときめき」や関係性の尊さは絶対に大切にしつつ、根幹となるストーリーがしっかり面白いものを作りたいと常に考えています。私がBL編集を始めた頃は、今より作品数は少なかったですが、だからこそ「今まで見たことのない新しいストーリー」がヒットする面白さがありました。たくさんの作品で溢れる今再びその原点に立ち返るのもチャレンジだとは思うのですが、しっかりとしたお話で幅広い読者を引き込む作品を作っていきたいと思っています。
――BLが好きな人はもちろん、老若男女に面白いと感じてもらえる作品を作ることを考えているのですね。ちなみに、レーベル名の「Re;zz(リズ)」には、どのような想いが込められているのでしょうか。
編集者K:
英語圏で「センスや魅力で人を惹きつける」という意味を持つ「Rizz」という若者たちの間で使われていた言葉をベースに、作家の個性が輝く場所でありたい、カリスマ性のある作家を世に出すレーベルでありたいという目標を込めました。
さらに、真ん中の「i」を「e」に変えて『Re;zz』とすることで、「繰り返し」や「再び」という意味を持つ「Re」という言葉をかけています。ロゴに入っているセミコロン(;)も、音楽の繰り返し記号をイメージしました。「消費されて終わる」のではなく、「いつの時代も繰り返し読まれる」「読者の生涯の宝物として本棚にあり続ける」ような、深く長く愛される作品を生み出していきたいという願いも込めています。
「Re;zz」気鋭の新作4作品を紹介!
――「Re;zz」初の単行本化を果たした2作品と2月に刊行した2作品、計4作品について、それぞれの魅力や作家との出会いを教えてください!
『てんある』(著/蜂煮)

編集長F:
蜂煮先生は、SNSで同人誌の作品を拝見した瞬間に「なんだこの突き抜けたセンスは!」と衝撃を受け、その日のうちに既存作品をすべて読み込んでスカウトしました。そんな蜂煮先生の新作である『てんある』は、孤独を抱えて新興宗教にハマってしまった青年・朝陽のもとに、ド派手な天使・ミカが舞い降りるという、一見すると非常にトリッキーで破天荒なお話です。
見た目のインパクトやシュールな笑いの要素は抜群なのですが、描かれているテーマは「愛と救済」という非常に王道で普遍的なものです。斬新な演出と深いストーリーが見事に融合していて、読めば読むほど感情移入してしまう温かい作品に仕上がっています。読者の方からも「こういう感情移入の仕方ができるんだ」といった反響をいただいています。
『ひとつ屋根の下、君とあいおどる』(著/せとあめ)

編集者K:
『ひとつ屋根の下、君とあいおどる』は、普通のサラリーマン・秋と、超人気アイドル・凜太郎の同居から始まる再会愛を描いたラブコメディです。せとあめ先生は、「こういう男が魅力的!」という明確な“好き”の軸を持っているという強みを持った作家です。
本作も「アイドル」「リーマン」「黒髪」「ワンコ」「メガネ」「幼馴染」「同居」「再会」「執着」……といった、蓋を開けてみれば属性や要素がてんこ盛り作品にはなったのですが、キャラの一貫性を大切にしながら、その成長を見届けたくなる作品にまとめあげてくれました。せとあめ先生はこれからも、ご自身の“好き”を作品を通して伝え、読者と共有するというコミュニケーションを大切に、作品を作り続けていける作家だろうなと思っています。
『「センパイのひみつ。」』(著/よるなく。)

編集者K:
よるなく。先生は、SNSでも人気を集めている、可愛らしい絵柄が魅力的な作家です。そんな先生の初商業作品である『「センパイのひみつ。」』は、優秀な先輩(由弦)と生意気な後輩(響也)が、秘密の「えっちな配信」をきっかけに契約を結ぶというお話なのですが、可愛らしい絵柄とは対照的なヒリヒリするドラマが印象的な一作となりました。
親からのプレッシャーなど複雑な背景を持つ精神的に未熟な高校生たちが、寂しさを紛らわすためとはいえ、間違ったアプローチをしてしまう……。キャラクターたちが未熟だからこそ生み出される葛藤や青春の痛みを楽しんでいただきたいですね。
『プロジェクトチーズケーキ』(著/八卯えだ)

編集長F:
八卯先生は、SNSのアカウントに投稿されていたイラストを拝見したのがきっかけでスカウトしました。圧倒的な絵の可愛さに惹かれて、「この可愛さなら絶対にいける!」「オリジナルのお話もしっかり描けそうだな」と光るものを感じてお声がけしました。そんな八卯先生の初商業作品である『プロジェクトチーズケーキ』は、元ヤンキーで気合いの入った会社員の紫田と、冷静沈着で仕事ができる黒髪メガネの同期・天川という、キャラクターの設定がはっきりと明文化されていて、アイコンとしても非常に分かりやすい魅力を持った作品になっています。
この作品は主人公である攻め(紫田)の目線から物語が進みます。最初は少し嫌なヤツに見えるかもしれないのですが……深掘りしていくと、「こういうバックグラウンドがあるから、こういう不器用な態度をとってしまうんだな」と納得できる。そんな彼の“人間臭さ”をしっかり味わってもらいたいですね。紫田という人間を通して、受けの天川を好きになっていく過程を、読者の方にも一緒に楽しんでいただきたいis.
新人作家と挑む、“二人三脚”のマンガづくり
――新規レーベルが増加するということは、それだけ作家が描く場所を選べるというメリットもあると思います。一方で、出版社からするとそれだけ作家に執筆先として選んでもらうことが難しくなっている面もあるのではないでしょうか?
ここから先は
¥ 300
この記事が参加している募集
よろしければ応援お願いします! より読者の皆さんへ喜んでもらえるコンテンツ作りに還元します!
