
バンドマンがアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』を見て受けた衝撃。まさかこれが令和に流れるとは!『ぼざろ』との意外な関係も発見
2025年4月から放送開始となっている、TVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』。『ぼっち・ざ・ろっく』や『ガールズバンドクライ』に続くガールズバンドアニメとして、一部アニメ好きの中では熱い注目を集めていた作品です。
直近のガールズバンドアニメ作品の傾向のひとつとして、さまざまな形で実在するバンドの音楽とアニメの内容を関連付けているという点があります。『ロックは淑女の嗜みでして』に関しても、その系譜はしっかりと受け継がれている様子。

お嬢様×ロックバンドという、異色の化学反応が魅力のひとつだった本作。実際に作中キャラクターと近しい音楽経験を持つ人から見た作品の魅力とは? 経験者だからこそ驚くポイントをガチオタ兼約20年の曽我美なつめがミュージシャン視点で語ります。
ボーカル不在。音楽好きの中でも“ツウ”なインストバンド
超お嬢様学校に通う主人公・鈴ノ宮りりさがさまざまな事情から、学校でのお嬢様生活とプライベートのバンド活動を両立させる物語、『ロックは淑女の嗜みでして』。
バンドメンバーは全員りりさと同じお嬢様でありながら、ひとたびステージに立つとその振る舞いはたちまち一変。普段のお淑やかさは影も形もなくなり、荒々しく激しいエネルギッシュな演奏で大勢の観客を魅了する──それが本作のあらすじとなっています。
彼女たちのお嬢様とバンドマンという二面性のギャップはもちろんのこと、近年人気を集める『ぼっち・ざ・ろっく』『ガールズバンドクライ』との大きな違いであり、本作の“音楽ツウ”的なポイント。それはやはり、インストバンドをテーマとしている点ですね。

アニメや漫画を履修した人はご存知の通り、彼女たちが活動するバンドの形式はインストゥルメンタルバンド。分かりやすく言えば、“ボーカルがいない楽器のみ”の形式のバンドとなります。
一般的に音楽が好きな人は、さまざまな曲のサウンドのみならず、曲の歌詞や歌に魅了される人も多いはず。ですがインストバンドは当然ボーカル不在のメンバー構成となるため、本来なら大勢を魅了する歌詞・歌の要素がありません。その点も、どうしてもバンドやジャンル自体が“ツウ向け”になる理由のひとつでもあります。
だからこそ歌詞・歌の要素がないにも関わらず大勢を魅了するインストバンドは、純粋な楽器の音のみで人を強烈に惹きつけられる高い実力を持つバンドばかり。そのため一般リスナーはもちろんですが、特に同じく楽器を演奏するミュージシャンたちを中心に、インストバンドは熱烈な支持と尊敬を集めることも多いのです。
「まさかこのバンドが令和に…!」衝撃を受けた音楽関係者たち
バンド・ロックレディのメンバーである彼女たちが自らのルーツとして演奏・言及するバンド・曲には、実在のインストバンドによるクールな音楽も多く存在します。音楽好きやバンド活動の経験がある人の中には、「かなり渋いツウ向けの攻めた選曲だな~」とついついニンマリした人もいることでしょう。
「まさかこのバンドが令和のアニメで言及されるなんて…」と衝撃を受けたバンドマンは、きっと筆者だけではないはずです。
主人公・りりさと、彼女の相棒的ポジションとしてバンドメンバーとなったドラマー・音羽。2人の邂逅と関係性のきっかけになったLITE「Ghost Dance」や、mudy on the 昨晩「YOUTH」は、どちらもインストバンド界隈の大名曲としてよく知られたナンバー。
また作中バンド・ビターガナッシュとの対バン対決で演奏されたSawagi「fuss uppers」、Bacchusとの対バンで演奏されたté「夜は光を掩蔽し、幾多の秘密を酌み、さかしまな『夢想』を育む。」。この2曲も、バンド・楽曲共にインストバンドを愛聴する人にとっては、ぜひチェックしておきたい存在です。
アニメをきっかけにインストバンドの音楽に触れ、「インストのロックってかっこいい…!」となった方はぜひ、上記のバンドに加えtoeやrega、mouse on the keysなども個人的には聴いて欲しいところ。中には楽曲がCMで使われているバンドもいるので(最も有名なのはtoeによる「JT」のCM曲でしょうか)、もしかしたら「あれ、聞いたことある!」と思う人もいるかもしれません。
『ぼざろ』とも関連が? 令和バンドアニメを繋ぐロックの系譜
また『ロックは淑女の嗜みでして』に登場するライブハウスの描写も必見です。りりさたちがよく出入りする楽屋やスタッフエリアは、バンドマンを経験者にとっては非常によく見慣れた雰囲気の空間でしょう。壁のあちこちに貼られたイベントのポスターやチラシ、バンドのステッカーやライブハウスの“出演パス”…。ごちゃごちゃとした、雑然とした部屋の空間はリアリティ満載。
少し前に爆発的な人気を得たアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』も、リアリティあるライブハウス描写が人気を得た理由のひとつでもありました。あちらは作中に登場するライブハウス・STARRYが下北沢SHELTERを元ネタとしていますが、こちらのMIX HALLは今のところ、元ネタとなるライブハウスの有無については一切情報も不明となっています。

さらに実は、音楽性の面でも『ぼっち・ざ・ろっく』と遠からぬ関連性がある『ロックは淑女の嗜みでして』。先述した作品全体のモチーフとなるインストバンドの数々は、ロック好き・バンド好きの間ではいわゆる“残響系”のバンドと呼ばれ、マスロック・ポストロックというジャンルに分類されるものが多くあります。
残響系の名前の由来は、上記のようなバンドを2000年代に多数輩出した「残響record」という音楽レーベルから。この残響系には先ほど触れた『ぼっち・ざ・ろっく』に登場するライブハウスの元ネタ・下北沢SHELTERに出演していたバンドも多く、『ぼっち・ざ・ろっく』のモチーフでもあるバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONほか、“下北系”の系譜の中から誕生したバンドもたくさん存在しています。
ERを舞台に大衆向けになっていく下北系から、ややアンダーグラウンドな音楽性の残響系へと、バンドの音楽性が枝分かれしていく。それが2000年代のロックシーンで起こっていたひとつの流れでした。
そんな音楽のトレンドを後追いする形で、下北系が題材の『ぼっち・ざ・ろっく』から残響系を題材とする『ロックは淑女の嗜みでして』が、令和の時代に共にマンガからアニメ化している点も、バンド・邦ロックが好きな人にとってはより面白味を感じるポイントでしょう。
ロック×吹奏楽が意外と“アリ”な理由
さらにバンドアニメとしての本作のユニークポイントが、物語の比較的冒頭にあるりりか&音羽による吹奏楽団への“武者修行”シーン! 冷静に考えてみれば、バンドと吹奏楽の演奏って全然違うんじゃない? 音楽の雰囲気も違うし、そんな簡単に参加できるの? と思う人もいるのではないでしょうか。
こちらのエピソード、中高6年間と吹奏楽部に所属しその後バンドの道へ進んだ筆者としては、実は意外とナシではない話。特にドラムとエレキベースは、吹奏楽でも楽曲によっては実際によく登場します(ギターとの共演は非常に珍しいですが…)。
作中でも言及される通り、吹奏楽とインストバンドは共に歌・歌詞のない音楽演奏形態。だからこそ歌モノバンドに比べて、演奏面でのマインドに通じるものは多い気もしますね。
歌がないからこそ、楽器隊の歌心と力量も明確に試されます。とはいえ一方で個人プレイに走っていては、せっかくの集団演奏が台無し。自分の力を発揮しながらも、周囲の音を聴き他のプレイヤーも巻き込んで、音楽を一つの大きな塊として牽引していく。そんなスキルを身に着けるには、バンドマンによる吹奏楽演奏はまさに“武者修行”にぴったりなのかもしれません。
さらに今回の演奏で登場した楽曲「宝島」も、ある意味で非常に二人の“武者修行”に向いていた曲でしょう。おそらく吹奏楽経験者であれば、誰もが一度は演奏したことがあると言ってよい定番曲「宝島」。この曲はそもそも、80~90年代に大きな人気を得たフュージョンバンド・T-Square(当時はTHE SQUARE名義)の楽曲が元になっています。

T-Squareもいわば、日本の音楽シーンにおいてもはや超大御所となるインストバンド。ロックではなくジャズ・フュージョンの要素を大きく取り入れたポップバンドですが、その功績は音楽ジャンルの垣根を大きく超えて語り継がれてきた存在です。本来はバンド形態の楽曲であったこの曲が、吹奏楽の名曲としてここまで大勢に知られている点からも、そのすごさを感じられるのではないでしょうか。
吹奏楽とロックバンド。一見遠い音楽にも見えるジャンルですが、中にはその橋渡しとなるようなバンドや楽曲もたくさん存在します。双方の音楽性を知り、それぞれの良さに触れることで、より多彩な音楽の引き出しを持つバンドへ成長する。2人の“武者修行”は、まさにそれを体現するエピソードとして非常にユニークなバンドストーリーだったと思います。
新たな音楽の世界を開くきっかけに
バンドマンや吹奏楽経験者の視点からでも、その面白さをたっぷり感じられる『ロックは淑女の嗜みでして』。アニメはまもなく一度物語の佳境を迎えますが、原作マンガは雑誌「ヤングアニマル」にて現在も連載中。
アニメは最終回を迎えますが原作マンガ、そして作中に出てくる音楽にも触れてみてはいかがでしょう。ロックバンドという言葉が持つイメージだけに収まらない、多彩な音楽があなたを待っているはず。その出会いも、ぜひ一緒に楽しんでみてくださいね。
(執筆:曽我美なつめ)
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