
【推しの子】2期OPは星野アイの“無自覚な罪深さ”を描いている?キタニタツヤが中島健人を起用した意味
2024年7月より待望の第2期が放送開始となった、アニメ『【推しの子】』。アイドル・星野アイの元で極秘に生まれた双子のひとり・アクアによる、母の死の真相を知るための追跡劇の始まりを描いたアニメ1期。第2期からは芸能活動を本格化させたアクアとルビーの活躍が、舞台『東京ブレイド』のエピソードを中心に描かれていきます。
衝撃的な展開のストーリーはもちろんのこと、アニメ『【推しの子】』において、話題を集めたのはやはり主題歌。1期オープニングのYOASOBI『アイドル』は、国内のみならず海外でも大きなセンセーションを巻き起こし、近年稀に見るスマッシュヒットを成し遂げた曲となりました。

そんな『アイドル』の後釜という事で、ややプレッシャーのかかる形となった『【推しの子】』アニメ2期主題歌。ですが結果として、そんな大勢の期待に見事応える楽曲が今回も用意されていました。
アニメ主題歌に起用されたのは、まさかの異色ユニット・GEMN。元Sexy Zoneの中島健人×キタニタツヤという、予想外の組み合わせに驚いた人も多かったはず。二人により生み出された新曲『ファタール』。その必聴ポイントを、ガチオタであり約15年のミュージシャン歴も持つ、音楽ライターの曽我美なつめが紐解いていきます。
※2024.08.07に公開した記事を一部編集のうえ、転載しています
まさかの異色コンビ。中島健人の起用理由
楽曲を語る上でまず外せないのは、今回主題歌を務めることとなったコラボユニット・GEMNの存在でしょう。当初主題歌が発表された時、「正体不明のユニット」と銘打たれ表に登場したGEMN。メンバーの予想合戦もネット上では繰り広げられていましたが、いざ蓋を開けると登場したのは中島健人×キタニタツヤという、あまりにも豪華かつ異色な組み合わせのコンビでした。
おそらく筆者含め大勢のアニメファン、そして【推しの子】ファンにとって意外だったのは、やはり現役バリバリのアイドル・中島健人の登場でしょう。いわゆる王道の男性アイドルであり、煌びやかで「ザ・王子様」という印象の強い彼。アニメやオタクコンテンツとはむしろ真逆の存在では…?と驚いた方も多いはず。
一体どのような経緯で今回のコラボが実現したのか。誰もが気になるその真相については、インタビューで経緯が明かされています。

『MEN'S NON-NO WEB』でのインタビュー(※)によると、当初キタニの元へ楽曲の制作依頼が舞い込んできた中、「せっかくなら“アイドル”と一緒に作ろう」という発想から、白羽の矢が立ったのが彼のチームにとって“アイドルを象徴する人物”だった中島健人なんだとか。
そんな第一印象から声をかけられた中島ですが、実は自身も両親の影響から、元々かなりのコアな映画好き。さらに昔からピアノなどの楽器演奏経験もあり、様々なジャンルの音楽を好んでいたりと、いわゆる“カルチャー”に幅広く興味関心を寄せる一面もあったそう。
加えて今作の起用直近でSNSにアップした『アイドル』のダンスカバー動画も話題を呼び、その注目度の高さはYOASOBI公式もコメントを寄せるほどでした。
当然「流行ってるから」という安直な理由だけでなく、リアルアイドルである己との共鳴を感じたが故に『【推しの子】』や『アイドル』にも魅了された彼。その中で飛び込んできた今回の話は、まさに引き寄せた運命的な縁と呼ぶほかありません。
※『MEN'S NON-NO WEB』:GEMN(中島健人・キタニタツヤ)「やってることも性格も違うけど、二人とも心に同じ“欠落”を持ってる」【ウィークエンド・インタビューズ 第38週】より
キタニタツヤが彼が語る、コラボの醍醐味
重ねて、もう一人のユニットメンバーであるキタニタツヤについては、アニメ・アニソンを愛する人々にとってはもはや語るも野暮な人物ですね。
『BLEACH 千年血戦篇』OPテーマ『スカー』を始めとした多彩なアニメ主題歌、タイアップで着実にステップアップし、昨年2023年にアニメ『呪術廻戦』主題歌「青のすみか」でついに大きくブレイク。
昨シーズンのアニメでも『戦隊大失格』主題歌『次回予告』を担当し、今なおその勢いは衰えを見せません。現在でこそソロアーティストとしての活躍を主とする彼ですが、元々音楽活動のルーツにはバンドマン、ボカロPといった出自も持っています。

同じくVOCALOIDをバックグラウンドとするユニット・ヨルシカのサポートベーシストを務めていることも、ファンにとってはもはや周知の事実でしょう。
従来からネットコンテンツやマンガ・アニメ・音楽といった、二次元コンテンツを中心に幅広く今話題のカルチャーに造詣の深い彼。今回デュエットを組んだ中島とは、そんな一面でも気が合ったのかもしれません。
結果、先述の記事の通り当初予想していた以上に打ち解けた関係性となった二人。その後も各所インタビューで和気藹々とした様子が見受けられたり、キタニが現在レギュラーを務めるラジオ「オールナイトニッポンX」では、二人揃って番組恒例のベイブレード対決を行うワンシーンも。
誰かとコラボで作品を作る意義を、「一人では出来ないものを作ること」「自分も知らない新たな自分の一面を、誰かに引き出されること」とも語ったキタニ。

その言葉通りこの『ファタール』を聴いた感想として、双方の「“らしくない”部分と“らしい”部分、両方が絶妙に入り混じった曲」という声も各ファンから上がっています。
一見水と油のようにも思える、まったく異なるフィールドで戦う二人。そんな奇跡の組み合わせが実現したからこそ、今回コラボならではの醍醐味が120%詰まった曲が生まれたのではないでしょうか。
星野アイは『アイドル』でもあり、誰かにとっての『ファタール』でもある
重ねて今作『ファタール』の最大のポイントは、やはり前期主題歌『アイドル』とはまたひと味違う、“アイドル”という存在の側面を切り取った楽曲である点でしょう。
世界中でセンセーショナルヒットを巻き起こした『アイドル』。その人気の理由として、やはりYOASOBI・Ayaseが楽曲を通して、星野アイをはじめとした“アイドル”という存在を真正面からストレートにわかりやすく表現したから、という点もおそらくあるはずです。
今作のタイトルに冠された「ファタール」は、フランス語で「運命の、魔性の」という意味の言葉。他者を(特に男性)を魅了し狂わせる女性を差す、「ファム・ファタール」という言葉で馴染みのある人も、オタクの中にはきっと多いことでしょう。
大勢を魅了し、誰かの希望の光や人生の指針ともなるアイドル。一方で時にはそんな誰かの運命を狂わせ、本来歩むはずの真っ当な道から外れさせる力を、彼ら・彼女らは持っています。
『アイドル』がアイドルの“希望”を正面から描いた王道曲であるなら、『ファタール』はそんなアイドルの裏側。言うなれば“罪深さ”を真正面から描いた曲、と言うべきでしょう。本作の主人公として物語を紡ぐアクアは、まさに「アイドル・星野アイによって人生を大きく狂わされた」典型例です。
母・星野アイの死後その真実を知るべく、彼は不本意ながらも結果として、芸能界という魔窟へ進んで足を踏み入れました。さらに遡れば前世で医者だった頃、彼はアイの狂信者に殺され、自らの命までも落としています。

良くも悪くも大勢の運命を変えてこの世を去った、あるいは死後もなお人々の運命を狂わせ続ける、天性のアイドル・星野アイ。
彼女は大衆を魅了する『アイドル』であると同時に、誰かにとっての『ファタール』でもあった。そんな彼女の人物像の側面を見事に描いたのが、GEMNによるアニメ2期主題歌なのです。
真のファム・ファタールの条件…それは“無自覚”であること
さらにもう一段解深い解釈をするならば、GEMNの二人が星野アイを今回“ファタール”と表現したのは、非常に言い得て妙というべきでしょう。
先ほども登場した、大勢を魅了するファム・ファタールという存在。大勢を狂わせる、というニュアンスから、この言葉に悪女のようなイメージや、魅惑的な女性を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
中にはこれまでそんな意味合いで、ファム・ファタールと言われた女性もいます。ですがそれだけでは、彼女たちを真のファム・ファタールとは呼べないでしょう。真のファム・ファタールの条件。それは彼女自身が誰かを狂わせることに、ひどく無自覚な点が重要だと筆者は考えています。
星野アイもまた、「誰かに愛されたい」という感情や承認欲求からアイドルになったわけではありません。むしろその逆で、彼女のアイドルとしてのスタート地点にあったものは「誰かを愛する気持ちを知りたい」という、自身の人間的欠落を埋めるものでした。
真のファム・ファタールには、自分の魅力で誰かを狂わせよう、相手の人生を壊そうという作為はありません。むしろそんな作為がないからこそ、ただただ強すぎる光に惹かれ魅せられ、こちらが勝手に狂って破滅している。それだけです。
しかしそれこそが、男女を問わずファタールと呼ばれる人間の真の恐ろしさ。そしてそんな人々の魅力の真髄でもあるのでしょう。星野アイ、あるいは中島健人のようなアイドル。そしてキタニタツヤのようなアーティスト。様々なマンガやアニメに出てくる、物語の中のキャラクターたち。
彼ら彼女らを推したり、時には大きすぎる情熱や愛を傾けている我々オタクにとっても、これは決して他人事ではないかもしれません。世はまさに国民一億総“推し活”社会。現在も様々な形で、粛々と沸々と自分の“推し”に熱狂する人々もきっと多い事でしょう。
その中には大勢を魅了する天性の才を持つ、ファタールとも呼ぶべき人々も確かに存在しています。彼ら彼女らに魅入られすぎて、自分の人生を破滅させないよう要注意、ですね。
(執筆:曽我美なつめ)
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