
『ダンダダン』は“現代オカルト”の分岐点になるか?「都市伝説をインスタントに消費しない」という信念
2024年12月18日に最終回を迎え、2025年7月より第二期が放映される予定の新感覚オカルティックバトルアニメ『ダンダダン』。2021年の4月に連載が開始され、その当初から「面白い漫画が始まったぞ!」と話題を集めていた本作。定番オカルトを斬新な切り口で現代に落とし込む構成力と、圧倒的な画力で描かれるバトル描写が人気を博し、ファン待望のアニメ化です。
…と、さんざん漫画好きやオカルト好きの仲間の間で話題になっていたのですが、タイミングを逃し続けた結果、現在まで『ダンダダン』の原作を読むことができておらず、筆者はアニメが『ダンダダン』に触れる最初の入り口となりました。

現代ホラー大好きでオカルトマニアな自分なら絶対に楽しめるはず!と思い視聴したところ、その予感は的中。「こいつ(幽霊)知ってるー!」と謎の親近感と共に、かなり楽しむことができました。
今回はホラー好きから観た『ダンダダン』について、実際に語られるホラーと絡めながら深堀していきます。
※2025.01.06に公開した記事を一部編集のうえ、転載しています
都市伝説の古典・ターボババアがCV田中真弓によって強烈に
都市伝説や現代ホラーと聞いて真っ先に思い浮かぶものはどういったものでしょうか? インターネットにおける超定番ホラーと言えば「八尺様」や「ヤマノケ」、「きさらぎ駅」「リアル」...あたりがよく聞く話だと思います。
ここ数年インターネット発祥の現代ホラーが各所で映像化され、また『近畿地方のある場所について』という衝撃作の出現によりモキュメンタリーホラーも世間に普及し、ホラーの形もどんどん進化しています。
そんなホラーブームが再び巻き起こりそうな時代のさなかに放映されるホラーアニメ、一体どんな幽霊が最初に出てくるのか...とワクワクして視聴したところ、まさかの「ターボババア」が登場。
ターボババアとは1990年代に流行した都市伝説で、深夜の高速道路を車で走っていると、とんでもないスピードでおばあさんが追いかけてくる、といった非常にシンプルなものです。
そこから都市伝説が広がる過程で尾ひれがついて「追い抜かれると事故を起こす」や「逃げ切ったら無事に帰れる」などの要素が加わり、「ホッピングババア」などのさまざまな派生幽霊も生まれています。
つまりターボババアは「口裂け女」や「人面犬」と並ぶような、ある種古典的ともいえる都市伝説です。
「八尺様」などのキャラ立ちしている幽霊が数多く跋扈するこの時代にターボババア!?と思いましたが、田中真弓さんのドスの効いた声で喋るババアはどの幽霊よりも強烈。元祖都市伝説世代の重さと威厳を保ちつつ、現代風の解釈やデザインが加えられ全く新しいターボババアのキャラクターを確立しており、昔からターボババアを知っている身としては一気に引き込まれました。
都市伝説のルーキー「アクさら」の解釈に驚愕と感嘆
一方、ターボババアと比べたら都市伝説のルーキーである「アクロバティックさらさら」(通称・アクさら)。こちらの発祥は2000年代のインターネット掲示板ですが、私はアクさらの話を初めて聞いたとき「泉の広場の赤い女」を思い出しました。
泉の広場の赤い女とは、昔梅田駅にあった泉の広場に、真っ赤な服を着た女の人の幽霊が出る、というそのまんまな都市伝説です。外見は「全身赤い服」「目が真っ黒」「髪が長い」と、アクさらとほぼ同じ。泉の広場の赤い女はアクさらよりも前の話なので、おそらくアクさらが泉の広場の赤い女から派生した幽霊なのではないかと考えています(八尺様の派生という説もあり)。
恐ろしい外見をしている一方で、作中では悲劇的な過去を持つ幽霊として描かれました。
アクロバティックさらさらとはその名の通り、高所からアクロバティックな動きで目撃者を追いかけてくる幽霊です。名前からして「なんかネタっぽい幽霊だな」と感じますが、『ダンダダン』作中における解釈は「バレリーナの投身自殺」という苦しいものでした。
この解釈からは、アクロバティックさらさらという存在に対する特大のリスペクトが感じられます。一見すればネタになりかねないアクさらに、ここまでの現実感と納得感が与えられて命が吹き込まれるなんて、驚きと共に感嘆しました。
都市伝説というものは人と人との間で紡がれていくものであり、その中でついていく尾ひれも、都市伝説を構成するうえでは大事な要素です。今回『ダンダダン』で描かれた尾ひれをもとに、アクロバティックさらさらという存在が今後どのように進化していくのか、ホラー好きとしてとても楽しみにしています。
オカルトを「インスタントにしない」という信念を感じる
筆者が『ダンダダン』で打ち抜かれたセリフは、第一話で「幽霊は信じてる」と言ったモモに対するオカルンの「オカルト舐めないでください」でした。
オカルトの世界は陰謀論から宇宙まで、幅広い世界の超自然的なことを含めてオカルトというのです。
世間的にオカルト=ホラーとなっているのは、ホラー自体がオカルトのなかでは華があって最も目立つ存在ですし、人々の興味を惹きつけやすいジャンルだからなのです。
にもかかわらず、オカルト=ホラーではない!と第一話で言い切ってしまうところに「オカルトをインスタントな要素にしない」という信念を感じ、筆者に深く刺さっています。
実際に作中には「レプティリアン」「セルポ星人」や「ネッシー」、「ドーバーデーモン」などの宇宙人やUMAが描かれています。オカルトというと荒唐無稽なものと思われがちですが、特に宇宙関連やUMAに関しては、ちゃんと科学的に検証しようとする風潮もあるのです。
UMAとのバトル中の分析やドーバーデーモンの健康問題など「オカルトだから」「そういうものだから」でふわっとさせずに「こうだからこうなのでは!?」と仮説を立てて実行し、解決に導いていくような描写が多く「オカルト舐めないでください」の精神は『ダンダダン』の根底にあるのだなと感じています。
いつかBackroomsやSCPのようなネットミーム系の超自然的なものも作中に登場するのかも...今後も楽しみですね!
オカルトのリデザインが秀逸。現代的な進化を遂げていく
『ダンダダン』の視聴を通して全体的に感じるのが「オカルトが現代風にリデザインされている」ということ。
単に現代風のファッションを着せたりするわけではなく「現代社会で、現実的にいたらこうなるんじゃない?」というツボを、ギャグだったりシリアスだったりとあの手この手を変えて近づけたうえで、物語に落とし込まれているのを感じます。
特に宇宙人関連はかなり自由に創作されているようで、これらは幽霊よりも姿かたちがはっきりしないことに起因しているのだと思います。
ターボババアやアクさらは名前だけで何となくの見た目年齢や性別がわかりますが、「セルポ星人」「フラッドウッズモンスター」「ドーバーデーモン」などは一見してどういう見た目・特徴をもっているのかが全く分かりません(宇宙人関連は、発見された土地の名前がそのまま名前になることも多いため)。
ですが、3mを超える巨漢とされているフラッドウッズモンスターはお相撲さんの姿をしており、体毛がなくツルっとした質感されているドーバーデーモンは、まさかのシャコ貝の異形頭をもった人型をしています。こうとされている、という特徴がわかりやすいデザインにし、決して安易なグレイ型宇宙人にはしないという強い意志を感じます。
また、創作性にあふれたデザインとはいえ基本的には有名どころを採用してくれるため、名前が判明する前にその特徴から元ネタを推理するのも楽しめました。
唐突に『シン・ゴジラ』っぽいUMAが出てきたときは「レヴィアタン・バジリスク・ネッシー」のどれかで迷いましたが「UMAといえばネッシーだ!」というオカルト脳により見事的中。一般的にはフタバスズキリュウ的な温和なイメージをもたれがちなネッシーをゴジラ風のデザインにし、親しみやすさと絶大なインパクト、そして攻撃的な印象を持たせるなんて...『ダンダダン』によってオカルトが再び注目される日が訪れるのも、時間の問題であるように思われます。
かつてはブラウン管から出てきていた貞子が、現代では配信画面から出てくる進化を遂げたのと同じように、『ダンダダン』の存在が分岐点となり、様々なオカルト的生き物が現代的な進化を遂げていくのかもしれません。
第一期の最終回が気になるところで終わった『ダンダダン』。「邪視」というホラー的に聞きなれた言葉や因習村のような存在も匂わされ、第二期が始まる2025年7月が待ちきれません!
オカルトが好きな方もそうでない方も、これを機会にオカルトの入り口として『ダンダダン』を楽しんでみてはいかがでしょう。
(執筆:宮本デン)
いいなと思ったら応援しよう!
