
劇場版『名探偵コナン』King Gnu主題歌に散りばめられたメッセージ。「TWILIGHT!!!」=夕暮れと夜明けは“喪失と再起”の物語だ
毎年この時期になると、今年もコナン映画の季節がやってきた!と思う人も多いはず。例年大勢のファンが心待ちにしている劇場版名探偵コナンシリーズ、その第28作目となる劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』が2025年4月18日に公開。封切から10日間で興行収入63億を突破し、これを記念した応援上映も決定するなど、今年も大きな話題を呼んでいます。

今作で物語の主役となるのはお馴染み毛利小五郎と、大和敢助をはじめとした長野県警の面々。シリーズに登場するキャラクターとしてはややツウ向けのメンバーですが、今回の映画で改めて彼らの魅力に気づいた人もどうやら大勢いるようですね。
重ねてコナン映画といえば、近年は主題歌を担当するアーティスト陣の豪華さも各所から注目を集めています。一昨年のスピッツ、そして昨年のaikoに続き今回主題歌に起用されたのは、今まさに邦楽シーンの最前線をひた走る超人気ロックバンド・King Gnu!
彼らによる劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』主題歌「TWILIGHT!!!」の聴き所を、ガチオタ兼約15年のミュージシャン歴を持つ音楽ライター・曽我美なつめがご紹介します。注目を集めた“扉の音”のみならず、映画の内容とも随所でリンクする歌詞についても深堀りしましょう。
劇場版「コナン」とKing Gnuは“長野つながり”で話題に
2025年の劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』は、毛利小五郎&長野県警陣を中心人物とした物語となっています。一見これまであまり縁のなさそうな両者を繋ぐのは、自らの使命を果たそうとする中で凶弾に斃れた、警視庁時代の小五郎の元相棒・鮫谷浩二。
彼の遺した言葉をきっかけに、八ヶ岳連峰未宝岳や実在の場所・国立天文台野辺山宇宙電波観測所といった長野県に実在する各スポットで、さまざまな人々の命を天秤にかけたミステリーが今作では展開されます。
今回の主題歌「TWILIGHT!!!」を手がけたKing Gnuは、今や国民的人気を誇るロックバンド。これまでにも数々の人気アニメ主題歌を担当しており、アニメ好きにとってももはやお馴染みの存在でしょう。

実はメンバーの井口理・常田大希は共に長野県出身。映画本編との“長野繋がり”な共通点も、公開前からコナンファンとKing Gnuファン双方の間で話題を呼んでいました。
主題歌の担当発表時には、ギター・常田から「今までのKing Gnuの楽曲には無い新しいアプローチの楽曲が仕上がった」とコメントが。
映画と同時に主題歌が公開された際には、コナンアニメではお馴染みの“扉の音”を混ぜ込んだ遊び心あふれるサウンドにも、大きな賞賛が集まっていましたね。
映画の封切当日には、新宿・歌舞伎町でKing Gnuのサプライズフリーライブも開催。曲名の“TWILIGHT”にちなんだ日没時刻にライブ開演となり、一切事前告知がなかったにもかかわらず、会場には約6000人が駆けつける事態に!
さらに映画作品自体も、公開3日間でシリーズNo.1の初速を記録。劇場版コナンアニメとKing Gnu、双方の人気が改めて浮き彫りになった週末でもありました。
映画とリンクする歌詞。「TWILIGHT!!!」とは日暮れと夜明け=喪失と再起の物語
映画の公開前後からトピックスも満載となった今回の劇場版主題歌「TWILIGHT!!!」。今曲の真の注目ポイントは、やはり映画本編のストーリーとの高いリンク性を誇る歌詞にあると言えるでしょう。
楽曲と映画両者に通ずるテーマはずばり“喪失と再起”。物語に登場するさまざまな人々の喪失と再起が、本曲では夕暮れと夜明けになぞらえて歌われているのです。
今回の映画では総じて、いろんな“亡くなった者”と“遺された者”の2人1組の物語が、ストーリーの展開の中で重要な鍵を握ってきます。今作のメイン人物となる小五郎と元相棒・鮫谷や、長野県警に所属する諸伏高明と弟・景光。また事件の重要人物ともなる一組の親子やカップル、そして犯罪者と犠牲者。
さらに今作も“隠れ公安”として活躍する安室透こと降谷零も、“遺された者”であることを改めて実感した人もいるはず。そして物語の主要人物となる大和敢助と上原由衣。彼らの過去に関しても、上記のテーマに通じる一面がありますよね。
物語の中で命を落とした人は皆、それぞれに大きな無念を抱え亡くなったことでしょう。
自分がもっとああしていれば、こうしていれば、あの人は死なずに済んだかもしれない。亡くなったあの人は一体、どれだけ無念な思いで死んでいったのだろう。
相手を喪った深い悲しみに加え、そう思う事で自分の中に湧きおこる怒りや無力感、後悔と悔しさ。それでも、そのような負の感情をきちんと受け止めた上で、自分が今果たすべきことは何なのか。
そんな“遺された者”たちのそれぞれの自問自答が、今作のストーリーをより深く、複雑にする一要素でもあると言えますね。
散りばめられた、“亡くなった者”と“遺された者”へのフレーズ
このような物語の核となる要素を踏まえた上で、主題歌「TWILIGHT!!!」の歌詞を改めて見ると、“亡くなった者”と“遺された者”それぞれの心情に関するフレーズが、曲中のあちこちに散らばっていることがよくわかります。
出来ることなら、もう一度だけあの人に会いたい。会って話がしたい。
けれどそれも、二度と叶わない願いとなってしまった。
大事な人を喪った悲しみも辛さも後悔も、当然そう簡単に忘れられるものではありません。
それでもいつか喪失に正面から向き合い、それを乗り越えられる日は必ずやって来ます。
止まない雨がないように。明けない夜がないように。
“遺された者”は皆大事な人がいない現実を受け止めて、未来に向かって少しずつ、あっという間の人生を一歩一歩前へ進んでいくのです。
“儚い”でなく「果敢ない」を歌詞に使う意図
大事な人を喪い、この世に遺された人たち。
彼らの喪失と再起を日暮れと夜明けに例えた主題歌「TWILIGHT!!!」ですが、歌詞の細部をよりじっくり見ると、あちこちにユニークな表現が用いられている点も今曲の注目ポイントですね。
英語詞の<TURN TO THE LIGHTS>は、直訳すると「光に向かえ」という意味。ですが物語全体のメッセージ性を踏まえると、「前を向いて明るい方へ進め」というニュアンスの方が、“遺された者”である人々の姿をより鮮明に想像できることでしょう。
また曲中の歌詞の中でも、サビにたびたび用いられる<果敢ない><春夏秋冬>というフレーズがインパクトに残った、という人も多い様子。
果敢ないと書いて“はかない”、春夏秋冬と書いて“ひととせ”と読むこれらの歌詞。
少し変わった難しい読み仮名ではありますが、これらはちゃんと従来から存在する表現です。“はかない”という読み仮名には、普通なら“儚い”という漢字を想像する人が多いはず。
「確かなところがなく、淡く消えやすい様子」を表す“はかない”という言葉。今回歌詞に用いられた“果敢ない”は、「何かを行おうとしたものの、結果が実を結ばず終わる」といった、虚しさや無常観がより強い意味合いとなる表現だそうです。
同様に“ひととせ”も、“一年”と書いてそう読むケースの方が多いですよね。
書いて字の如く、年間を通した四季である春夏秋冬=一年という認識から当てられる“ひととせ”という読み仮名。ですが“春夏秋冬”と書く場合は文字通りの一年間のことではなく、自然のサイクルや時間、人生の経過があっという間なことを表すニュアンスが含まれるようです。
そんな言葉の本質的な意味を改めて知ると、歌詞の表記を上記のような書き方にすることで、劇中で何かを成し遂げられないまま亡くなった人たちの無常な運命や無念さ、その人生の短さやあっけなさがより強烈に感じられるはず。
作詞を担当したKing Gnu・常田はおそらく、今作のストーリーと言葉の意味を照らし合わせ、歌詞の中で敢えてこの表現を使ったのでしょう。
これらのフレーズからは彼の繊細かつ鋭い日本語への感性が、とても顕著に滲み出ているようにも思えますね。
映画が内包するもうひとつの本質…印象的な“雪”が表すもの
さらにもう一歩踏み込んで映画と主題歌の深読みをするならば、舞台となった長野や作中で終始印象的に描かれた“雪”のモチーフも、物語の根底に内包されたメッセージを示唆する一要素であると言えるでしょう。
“亡くなった者”と“遺された者”が織り成す今回のストーリー。
すでに作品を鑑賞した人にはおそらく伝わると思いますが、今作の事件の中で人々の結末を左右する鍵として、誰かを赦す(≠許す)ことが非常に重要なポイントとして描かれていましたよね。
ずっと憎み恨んできた、到底許せないような相手を、それでも赦し受け入れる。作中では大事な相手を喪った人々が、それでも前を向いて歩き始める大きな一歩として、上記の描写を重要な局面として描くシーンもありました。
対立していた二つの物事のあいだにある緊張状態が緩むこと。あるいは険悪だった両者のあいだに、仲直りのできそうな雰囲気が生まれること。
そういった状態を示す「雪解け」という日本語表現を、聞いたことがある人もきっといるのではないでしょうか。
止まない雨はなく、明けない夜がないのと同じように、雪もいつしか溶けて春がやってきます。
どれだけ大きな悲しみに襲われても、辛く苦しい状況に陥っても、その先には必ず明るい希望がある。それこそが劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』のテーマであり、主題歌「TWILIGHT!!!」の歌詞に込められた最も重要な作品の本質なのかもしれません。
ミステリーと個性の光るキャラも大きな魅力!
前作の劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』を超えるロケットスタートを記録し、まだまだこれからも大勢の人々を魅了するであろう劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』。
例年作に比べややシリアスかつ壮大なテーマのミステリーであると同時に、いつもの映画に比べれば、主要キャラクターとなる長野県警陣のことをあまり知らない、という人ももしかしたら多いかもしれません。
ですがそんなコナンライト勢でも、本作は充分に楽しめること間違いなしの作品となっています。何より映画を見る事で、King Gnu主題歌「TWILIGHT!!!」の持つ、深い楽曲の魅力にもより気づくことができるはず。
映画を見る事で曲を聴きたくなり、曲を聴くことでまた映画が見たくなる。
そんな理想的なタッグとなった劇場版作品&主題歌を、引き続き今後もたっぷり楽しんで下さいね。
(執筆:曽我美なつめ)
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