『秘密關係 Secret Lover』『センプラ』プロデューサーが語る実写BLの熱量「1度ファンになったら裏切らない」
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てているnumanによる、女性向けエンタメの裏側に迫る連載企画『エンタメビジネスの裏側:沼の作り手たち』。ユーザーが愛するコンテンツがどのような想いで作られているのか、制作の裏側に迫ります。
今回は、日台共同制作の映画『秘密關係 Secret Lover 最後の約束』や、縦型ショートドラマ『センプラ 相方が親友で時どき恋人』など、話題の実写BL(ボーイズラブ)作品でエグゼクティブプロデューサーを務める合同会社DMM.com 海外部 統括部長の石黒健太さんにインタビュー。

ヒット作誕生の裏側や、台湾という環境だからこそ描けた空気感、それぞれのメディアに合わせた戦略、そして「1度ファンになったらずっと大事にしてくれる」というファンの圧倒的な熱量についてたっぷりと語っていただきました。
そして後半の有料パートでは、思わず沼落ちしてしまう「ヒットの法則」や、世界へ届けるためのカルチャライズ(現地の文化に合わせた調整)戦略、さらには役者が年齢を重ねることもポジティブに捉える「実写BLの未来像」に迫ります。
(取材・執筆:阿部裕華)
実写BLを模索する中で踏み出した海外制作への挑戦
――まずは、石黒さんの現在のポジションと、実写BL作品の映像化に取り組まれた経緯からお伺いできますか。
石黒健太(以下、石黒):
私は現在DMM.comの海外事業部にて、ゲームやマンガを海外にローカライズする事業を行っています。その中で、BLやTL(ティーンズラブ)作品なども取り扱っています。
映像化に取り組み始めた一番のきっかけは、私が以前、グループ会社のデジタルコミック出版社「CLLENN(シレン)」で仕事をしていた経験にあります。毎月数千点近い新作マンガが配信される中で、読者が「自分が出会うべき新しい作品に触れる機会」を失っているのではないか、と感じていました。出版社側として、もっと読者と作品の「接触機会(知ってもらうきっかけ)」を作る動きをしていかなければならないと考えたのが、大きな動機になっています。
――その中で、日本と台湾の共同制作という形で『秘密關係 Secret Lover 最後の約束(以下、秘密關係)』(※1)の企画が動き出したのはなぜでしょうか?
石黒:
過去に映像作品をプロデュースしてきた中で、読者の方が求めているのはやはり「王道」の作品だと感じていました。ただ、王道の作品をどうやって選んでもらうかと考えたとき、すごく単純な発想なのですが「海外で撮ったらどうなのだろう」と思ったのが始まりです。
それともう一つ、日本のマンガ作品を日本で実写化すると、どうしても日常の風景が近すぎて、原作とのギャップを感じやすくなってしまう点に課題を感じていました。そこで舞台を海外に移すことで、ある種のファンタジーとして捉えやすくし、実写化への心理的なハードルを下げるという狙いもあったんです。そこで、現実の延長線ではなく、純粋に“2人の関係性”に没入してもらう。そのために、積極的に海外で撮ろうと舵を切りました。
というのも、実写化においてはどうしても、「原作のイメージと乖離(かいり)している」「こんなキャラクターじゃない」といった齟齬(そご)が起こりやすい状況がありました。特に私が初めてのBL実写映画の企画を始めた2019年頃は、まだ「BLをどう作るのか」というノウハウが日本の映像制作側に浸透しきっていない印象を受けました。
――2019年頃というと、厳密にはBL作品ではありませんが男性同士の恋愛を描いたドラマ『おっさんずラブ』が2018年に流行り、その後、ヨネダコウ先生の『囀る鳥は羽ばたかない』が劇場アニメ化されたり、水城せとな先生の『窮鼠はチーズの夢を見る』が実写映画化(2020年公開)されたりなど、徐々にBL作品のムーブメントが起こり始めた時期ですね。
石黒:
ええ。過去にも『タクミくんシリーズ』などBL映像作品は日本にもありましたが、2020年に本格的なBL映像作品のムーブメントが起こってきました。しかし、映像制作側は「BLの“萌え”をどう表現するか」の解像度が低く、模索している時期だったと思います。
一方で、アジア圏に目を向けると、タイでは『2gether』をはじめとしたBLドラマが複数作られ、それが日本に逆輸入される形で熱量の高いファンに届いているという状況がありました。ですので、制作陣がBLに対してフラットな気持ちで作ってくれる環境がアジア圏にあるのではないかと考えました。
(※1)『秘密關係 Secret Lover 最後の約束』…こめおかしぐ先生の人気マンガ『イッて終わりなわけがない!』を原作に、台湾の映像制作スタジオ・腦漿娛樂と日本のCLLENNが日台共同制作で挑んだ作品。台湾でのドラマ配信を経て、再編集とオリジナルシーンを加えた劇場版として公開。主演は、マルチリンガルで国内外問わずファンを獲得しているGUNO(王君豪)と、台湾のソロシンガーとしても活躍するChance(成晞)。脚本統括には“台湾BLドラマの母”と呼ばれる林珮瑜(リン・ペイユー)が参加。
日台共同制作『秘密關係』で確信を得た実写BLの作り方
――アジア圏の中でも、『秘密關係』の制作パートナーに台湾を選ばれた理由は何でしょうか。
石黒:
台湾は同性婚が認められている(2019年にアジアで初めて同性婚が合法化)など、環境的に受け入れる下地があります。また、今後アジアへ広く届けていくと考えたとき、台湾は地理的に近かったり親交があったりと日本人から見ても親しみやすく、海を渡っているからこそのファンタジー性もある。タイBLのブームに続き、次に大きなムーブメントを起こす「ネクストブレイク」のジャンルとして、「台湾BL」が来るのではないかと考えたんです。実際に、台湾で人気のBLドラマ『HIStory』シリーズは2017年にスタートし、そこから数々のヒット作が生まれていますよね。
――『秘密關係』の脚本統括を務める林珮瑜(リン・ペイユー)さんは、まさに『HIStory』シリーズや『We Best Love』『奇蹟』など、数々の台湾BLドラマを手掛けていますよね。実際に台湾で制作されてみて、いかがでしたか?
石黒:
台湾のチームは距離感がとても近くて、アットホームな手作り感がありました。今回お願いしたスタジオ(腦漿娛樂)がそうだったのかもしれませんが、ファミリー感が強かったんです。姜秉辰(ジアン・ビンチェン)監督は、主演の2人の関係性を壊さないように阿吽(あうん)の呼吸で撮影してくれましたし、現場の謝沛融(シャ・ペイジュン)プロデューサーもBLへの理解が深く、ファンの視点を大切にされている印象があり、私たちも安心して作品づくりに臨めました。原作者のこめおかしぐ先生と一緒に撮影現場へ行ったときも、言語の違いはあれど、「この人たちが手掛けてくれるなら大丈夫だろう」と確信できましたね。

それまでは「実写化する以上、映像としての正解を導き出さなければならない」と試行錯誤し、日本国内での制作の難しさを感じていた時期もありました。しかし、BLへの強い情熱を持つ作り手が手がけたラッシュ(編集前の映像)を見たとき、原作が持つ「温度感」や「情緒」がいかに大切であるかを再認識したんです。映像制作の作法よりも先に、まずは読者の方々が大切にしている感情の核に深く寄り添うこと。その制作のスタンスこそが、私たちが目指すべき一つの形なのだと確信を得ました。
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接触機会を増やす、ショートドラマ『センプラ』の挑戦
――『秘密關係』は劇場公開もされた長尺の映画作品ですが、一方の『センプラ 相方が親友で時どき恋人(以下、センプラ)』(※2)は縦型のショートドラマです。本作をショートドラマという形式にした理由についてもお聞かせください。
石黒:
接触機会の場として、「新しい媒体(ショートドラマ)」が生まれたからですね。これまで私たちが作ってきた、映画館や劇場に足を運んでもらう作品というのは、観るためのハードルが高い分、ある種のイニシエーション(通過儀礼)のようになり、得られる体験がものすごく濃いんです。ファンダム(熱心なファンのコミュニティ)が醸成された状態で、「面白いから広めたい!」という局所的で非常に高い熱量の拡散が起こります。
一方で、ショートドラマは観るためのハードルが低い分、映画より広く世の中に届けることができるのが魅力です。もちろん作品ごとに届け方の取捨選択は必要ですが、ショートドラマに関しては、どれだけ普段BLに触れていない層へ作品を届けられるかを意識しました。

――媒体は違えど、最終的なゴールは、やはり「原作マンガを読むこと」なのでしょうか。
石黒:
はい、そうです。今までBLを見たことがない人でも、「面白い!」と思って、原作のマンガを読んでもらえるきっかけになったらいいなと思っています。私たちは原作者の先生から大切な作品をお預かりしているので、その作品を世の中にどう広げていくかを一番に考えています。もちろん映像作品だけで完結してしまうパターンもあると思いますが、電子コミックのバナー広告、電車や書店で掲出されたポスターなど、いろいろな接触機会の積み重ねが繋がったときに、映像化という1つのフック(点)が繋がって線や面になる。その瞬間に、作品自体が立体的になってヒットに結びつくと考えています。
これだけエンタメコンテンツが溢れている中で、潜在的に見たいと思っている人に届けるためには、いろいろなところに網の目のようにきっかけを張っていくことが大切なんです。映像作品を観てすぐに原作を手に取っていただけないこともあると思いますが、いつか「あ、これ観たことある!」と思い出したときに原作を買ってもらえるかもしれない。実際、これまでの映像化作品でも、そこから原作を読んでくださるユーザーさんの反応はしっかりとあると感じています。
(※2)『センプラ 相方が親友で時どき恋人』…河飯じろう先生のマンガ原作で、DMM TV「DMMショート」にて全30話で配信された縦型ショートドラマ。石川悠人演じる陽キャイケメン芸人の長崎佑太郎と、元之介演じる陰キャで“じゃない方芸人”の武井周作による、お笑いコンビのコンビ愛と秘密の恋愛を描いた作品。
「この世界には2人しかいない」BLファンの圧倒的な熱量
――石黒さんはBL以外の作品にも携わってこられているかと思いますが、BL作品独自の「ファンの熱量」を感じることはありますか?
石黒:
BLの読者の方は、「一度好きになってくれたら裏切らない」という持続性の高さがあります。以前、BL小説家の方とお話しした際にも、「腐女子は、一度ファンになってくれたら裏切らない」と言われたのですが、本当にその通りで、私の中でもすごく印象深い言葉です。一度好きになると、“箱推し(カップリングやグループ全体を応援すること)”になって、永遠に応援してくれる持続性の高さはBLファンならではですね。
――SNSでの盛り上がりなど、熱量の高さを実感したエピソードがあれば教えてください。
石黒:
『秘密關係』で言うと、さまざまな言語圏のファンの方々が、自発的にファンミーティングの動画などをアップして広めてくれる「熱狂」を感じました。日本国内だけでなく、海外のファンも一緒に盛り上がってくれているのを肌で感じたのは特に大きかったですね。
昨年(2025年)9月に行われた台北ファンミーティングでも、ファンの皆さんの熱気が本当にすごかったのですが、特に印象に残っているのは日本での映画公開時のお見送りでの光景です。お見送りの際に、ファンの方が主演の2人(GUNO(王君豪)さんとChance(成晞)さん)しか見えておらず、帰り道の通路に立っているスタッフにぶつかりそうになるほどでした(笑)。その様子を見て「この世界には2人しかいないんだ」と思い、その一途な愛情と熱量に感動しましたね。

――ショートドラマの『センプラ』では、熱量に違いはありましたか?
石黒:
『センプラ』は、また質が違って、瞬発的で軽やかな熱量がありました。SNSのアルゴリズム(おすすめに表示される仕組み)によって、今までBLを見たことがなかった人たちにも届いていたと思います。「お笑い芸人×BL」というテーマが面白そうだと感じてもらえたり、普段お笑いを見ている方たちの一部がなんとなく感じる「お笑いコンビに対するボーイズラブ的な要素」を視覚化できたりした点が、今の時代に合っていて良かったのかなと。原作を手掛けられた河飯じろう先生の秀逸な切り取り方が、見事にハマった結果だと思います。

キャスティングの絶対条件は「並んだときの必然性」
――BLは「カップリング推し」の人が特に多いかと思いますので、キャスティングは非常に重要ですよね。プロデューサー視点で重要視しているポイントを教えてください。
石黒:
キャスティングは本当に重要です。これまでマンガ原作を実写化する際、「Aというキャラクターにはこの役者さんが合っている」「Bというキャラクターにはこの役者さん」と、キャラ単体で選ぶことが多かったかもしれません。しかし、BL作品のキャスティングにおいて私が一番重要視しているのは、「2人が2人でいること、並んだ時の必然性を感じるかどうか」is.
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