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イラストレーター・風李たゆが1枚の絵に宿す“情緒”とは?AI時代で描き続ける意義も語る「自ら筆を折る必要なんてない」

「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てているnumanによる連載企画『AI時代を生き抜く、“沼”クリエイターの流儀』。第一線で活躍しているクリエイターの方々をお迎えし、制作におけるこだわりや、AI時代においても失われることのない“人間ならではの創作の意義”を深掘りします。

今回お話を伺ったのは、アイドルオーディションプロジェクト『VS AMBIVALENZ』やゲーム『OVER REQUIEMZ』のキャラクターデザイン・原画などを手掛ける風李たゆMr.

イラストレーターとしてはもちろん、自ら歌唱や作詞を手がける音楽ユニット『架空ヲ詠ム』としても活動をしており、多方面での“沼”を生み出している注目のクリエイターです。

昨年(2025年)11月には東京・渋谷での初個展も開催。見る人の心を掴んで離さない彼女のクリエイティブの裏側には、どのような思いが込められているのでしょうか? クリエイターを志したきっかけとともに紐解くと、音楽や演劇を経験していたからこそ大切にするキャラクターの“情緒”へのこだわりが明らかになりました。

さらに後半(有料パート)では、生成AIが発展する現在において「人間が描き続ける意味」について深掘り。「自分の絵が、AIに負けてしまうのではと考えた時期もあった」と明かしつつ、それでも「人間だからこそ表現できるものがある」と話す風李さん。「AI時代でも自ら筆を折る必要はない」と、これからクリエイターを志す人へ力強いエールを贈ってくれました。

(取材・執筆:柴田捺美)

プロフィール:風李たゆ
女性向けIPのキャラクターデザインやゲームイラスト、MVイラストなどを手掛ける才能豊かなイラストレーター。彼女のクリエイティブな才能はイラストだけにとどまらず、音楽ユニット『架空ヲ詠厶』のボーカル、作詞、アートディレクションを担当し、自身のオリジナル楽曲の制作・公開も行っている。■公式X(旧Twitter)


道端でオペラ歌手からスカウトされるも、絵の道へ

――まずは、風李さんが絵のお仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

風李たゆ(以下、風李)
絵自体は2歳くらいの頃から描き始めていました。小さい頃からずっと当たり前のように絵を描き続けていて、「絵を描いていない時がない」みたいな子どもだったんです。

なので、大きくなったら絵を描くお仕事をしたいなと思っていたのですが、実は中学生くらいまではイラストレーターという職業を知らなかったんですよね。名前も知らなかったですし、絵を描いて生計を立てている方がいることすら、当時は知らなくて。絵を描くお仕事といえば漫画家さんの存在しか思いつかなかったので、小さい頃は「漫画家さんになりたいな」と思っていました。

当時『美少女戦士セーラームーン』のアニメが放送されていたので、その影響で漫画家に憧れていたのもありますね。惑星をモデルにキャラクター名がついていたり、色が決まっていたりするのがすごくワクワクして。『セーラームーン』を通して、キャラクターの魅力というものをすごく感じていたなと思います。

――風李さんはイラスト以外にも、ユニット『架空ヲ詠ム』などで音楽活動もされています。歌も幼い頃から好きだったのでしょうか?

風李
そうですね。子どもの頃は「歌手になりたい」という気持ちと「漫画家になりたい」という気持ちが、同じくらい強かったんです。歌も独学や合唱などで何年もやっていて。

今思うとちょっと変な子なのですが、学生時代は田舎に住んでいたので、下校中に大きな声でクラシックを歌いながら帰るということをしていて……。人目を気にせず、大きな声で歌いながら帰っていたんです。しかも、オペラのような歌い方で(笑)。

そしたら、たまたま近隣にプロのオペラ歌手の方が住まわれていて。ある日その方に「君、もうちょっと歌ってみてくれ」と声をかけられたんです。

――道中でいきなり、歌のプロからスカウトされたのですね。

風李
その後、親と話をさせてくれないかということになり、何回かその方のレッスンにも通いました。ありがたいことに「歌のポテンシャルがあるから、歌の道に進むのはどうですか?」と言っていただけて。そこで本格的に将来が決まってしまうような流れになったんです。

でも、大好きな絵と歌を天秤にかけて考えた時、やっぱり絵を描いていることが自分にとって一番のアイデンティティだったので、それをしなくなるのはあり得ないだろうなと思って。音楽の道は諦めて、絵を描く仕事をしていきたいと、中学生くらいの時に強く思い直しました。

ちょうどその頃、ゲームのパッケージやカラフルなキャラクターを描く「イラストレーター」という職業があると知り、だんだんとそこへ意識が向いていくようにもなりましたね。

――中学校を卒業後は、絵を専門的に学べる環境に入ったのでしょうか?

風李
実は、絵の専門学校で学んだことはなくて。もっと言うと、自らの意思で高校に入学しなかったんです。当時は勉強も苦手でしたし、田舎だったこともあり、専門的な学校もほとんどなかったので、どこかの高校に入って勉強漬けの3年間を過ごすよりも、たくさん絵を描いて早く絵のお仕事をいただけるようになりたいと思っていました。親と先生を説得して、「高校に進学せずに、アルバイトをしながら絵を描き続けます!」と伝えました。

中学卒業後は、飲食店でアルバイトをしながら、ニコニコ動画のお絵描き掲示板(現「お絵カキコ」)やpixivへの投稿を始めました。最初は好きな漫画のキャラクターや初音ミクちゃんなどの二次創作をメインに、ものすごいスピードで投稿を続けていましたね。

そしたら、17歳くらいの時に、pixivのメール機能を通じてゲーム会社さんから「カードイラストを描きませんか?」という初めてのお仕事の依頼が来たんです。

当時はソシャゲバブル(ソーシャルゲームバブル)全盛期だったので、最初のお仕事イラストを投稿したら、ありがたいことに次々とほかの企業さんにも見つけていただけるようになって。だんだんと絵だけで生活していけるようになり、今に至るといった感じです。

一瞬を切り取り、キャラクターの“情緒”を表現する

――風李さんの描くイラストは、多くの人の心を惹きつける不思議な魅力があります。キャラクターを描く際に、意識しているポイントは?

風李
パッと思い浮かんだのは……“情緒”ですね。

よくSNSなどのコメントで「表情がすてきです」と言っていただけることが多く、とても嬉しく思っているのですが、それはキャラクターたちの情緒を丸ごと表現するつもりで描いているからだと思っています。

表情のみならず、画面の中にいるキャラクターが今何を思っているのか。どんな仕草をしていて、自分が切り取っているのはどんな瞬間なのか。感情の動きや機微を総合的に想像して、その人物が生きている世界そのものを表現したいというのが一番にあるんです。

――以前のインタビューでも、イラストを描く際にはまず「キャラクターの動きを想像し、それを“写真”として切り取る」とおっしゃっていました。

風李
まさに、その意識が常にあります。あくまでも自分はキャラクターの一瞬を絵として切り取っているだけで、その前後にも、彼らの世界では時が流れている。創作絵のみならず、お仕事として頂いたイラストを描く際にも、光の射す方向や影のかかり方、衣服や髪のなびき方にいたるすべてにおいて、情緒を演出するように意識しています。

これは、私自身が演劇を8年くらいやっていた経験も活きているなと感じていて。役に向き合う時と同じように、絵を描く時にも「この人物は今こういう状況でこういう感情だから、こういうセリフが出て、こういう仕草になるだろう」と考えてしまうんです。

また、どの角度から演じれば見てくれる方にもっとも伝わるか、魅せ方についても考えてみたり。そういった演劇的な見え方の工夫は、イラストにおいても意識しています。

ただ、もちろんクライアントさんによっては情緒的に魅せるよりも一枚絵としてアート的な仕上がりを期待されていることもあるので、そこは自分の中で切り替えながら描くようにしていますね。

今は“青”のような絵を描いていたい

――衣装やビジュアルのトレンドについては、どのように収集されていますか?

風李
アイドル作品を描くときは、世の中の流行を掴むように気を使っていて、アーティストのミュージックビデオなどを頻繁にチェックしています。あとはファッションの通販サイトも、何も買わなくても毎日見ていますね。今の世の中でどういう洋服が流行っていて、どんなプロモーションがされているのか、情報収集しています。

一方で、最近の個人的な制作については、少し変化がありました。去年の11月に初めての個展を開催させていただいたのですが、その時に改めて「自分の絵とは、ものづくりとは何だろう?」と考え直したんです。

――考え直した結果、どのような答えに行き着いたのでしょうか。

風李
見てくださる方にゆっくり浸っていただけるような、そして自分自身も癒やされる「青」のような絵を描いていきたい。情熱的な刺激だけでなく、じっくり寄り添うような作品を届けたい。そう思うようになったんです。

今の世の中、「消費の速さに疲れてきている人が多いのでは」と感じていて。都会的なものとは逆に、自然が豊かな場所や、店主がこだわり抜いたインテリアが魅力の静かな喫茶店のような……誰かの息吹、ないしは自然の息吹を求めているのではないかと思うんです。

なので、今の自分は癒される「青」のような絵を描く時期にあると思っていますし、それが世の中のニーズともマッチしているのかなと感じています。

SNSでイラストを見てくださった方から「いつも世界観に浸っています」などと言っていただけることもあり、ゆっくり眺めて楽しんでいただけると思うと、とても嬉しいですね

人間には、時間がある。AI時代でも“描き続ける”意義とは?

――ここからは、現在のクリエイター業界が直面している「生成AIとの向き合い方」について、お話を伺います。生成AIが急速に普及する中で、“人間にしか作れないもの”とは何だとお考えですか?

風李:
AIについては私も常日頃から考えています。避けては通れないテーマですよね。

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