
オーストリア最大級のアニメ&漫画イベントで見た、日本とは違う同人・コスプレ事情
いまや日本のアニメや漫画は、世界に誇るポップカルチャー。日本だけに限らず、世界中で大小さまざまなイベントが開かれています。
日本のアニメ・漫画系イベント、いわゆる同人誌即売会では漫画や小説などの二次創作や公式グッズの販売、コスプレ撮影会などが一般的です。では、海外のアニメ・漫画系イベントではどのようなものが頒布され、またどんな企画が行われているのでしょうか。
今回は、ヨーロッパのオーストリア在住で人生のバイブルは『ハイキュー!!』なオタクライターが、首都ウィーンで開かれたアニメ・漫画系イベント「AniNite 2025」に参加してきました。

(取材・執筆&撮影:ヤマコシ ショウコ)
オーストリア最大級のアニメ・漫画コンベンション「AniNite 2025」を訪問!
今回筆者が訪れたのは、オーストリア最大級のアニメ・漫画コンベンション「AniNite 2025」。2001年の初開催以降、毎年のように開催されており、オーストリアのアニメファンの間では有名なイベントのひとつです。今年は8月8日から10日にかけての3日間開催されました。
最初は小さな会場で日本の映画を鑑賞しゲームをするだけのイベントで、参加者はたったの70人だったそう。それが徐々に規模が大きくなり、2024年には25,000人を超える来場者を記録しています。
今回イベントが開催された会場は、オーストリア最大のコンベンションセンターであるAustria Center Vienna。総展示面積は26,000平方メートルですが、今回のイベントで使用されたのはおおよそ3割程度でした。

世界最大級の同人誌即売会であるコミックマーケットが開催される東京ビッグサイト東展示場の展示面積が約66,000平方メートルで、2024年夏のコミケでは26万人の来場者を記録したことから考えると、とても小さなイベントであることがわかります。
とはいえ、そもそもオーストリアの国土は北海道と同じくらい、人口も約920万人であることを考えれば規模が小さいのも道理かもしれません。
「AniNite」は同人グッズやオリジナルグッズの販売、声優によるゲストトークなどだけでなく、イラスト&フォトコンテスト、メイドカフェ、コスプレステージに演劇まで開催されており、盛りだくさんの内容でした。
同人ブースはオリジナル作品が多め? 国内外から集まったプロクリエイターも出展
筆者がまず向かったのは企業ブース。アニメグッズ店や漫画専門店、画材店などが出店していました。特徴的だったのは、アニメや漫画とは一見関係のない商品も多く見られた点。たとえばかわいいウサギや猫などのファンシーグッズ、コスプレ服ではなくゴスロリやパンク系の服やカバンが並んだお店などなど……。漫画だけでなく、日本に関連した小説や本を置いている書店もありました。



同人ブースでは、いわゆる二次創作よりもオリジナルキャラクターのグッズを販売しているスペースが大半。そして二次創作でも主にイラストやステッカー、アクリルスタンドなどのグッズがほとんどで、同人漫画や小説を頒布しているスペースは数ヵ所しかありませんでした。



ヨーロッパでは二次創作はあまりメジャーじゃないのかな?とも思いましたが、一緒に来ていたドイツ人の友人は「私が昔行ったことのあるドイツのイベントでは、二次創作グッズもたくさんあった」とのこと。著作権の関係で少ないのか、とも思いましたがスペースの方に聞いてみるとそういうわけでもないそう。
オリジナルグッズを販売しているスペースは、普段から仕事として制作活動を行っているプロフェッショナルが多かったのも特徴のひとつ。さらに、オーストリアのイベントにもかかわらず、出展者はなぜかドイツやイギリス、イタリアなど国外出身の方ばかりでした。ただこれに関しては、ヨーロッパかつ首都なので珍しいことではないのかもしれません。

ツンの強すぎるメイド喫茶にたじたじ?「特別に唾入れといたからな!」
今回のイベントでは、日本の代表的なポップカルチャーのひとつとしてメイド喫茶ブースもありました。

かわいい内装やデコレーションを想像していましたが、実際は飲食スペースの一角をそのまま使っただけの、良くも悪くもシンプルなメイド喫茶でした。

店内の様子やメニューを見る限りでは、日本のメイド喫茶特有のおもてなし(?)はなさそう……と思ったら。なんと「ツンデレ(Tsundere)」や「気付いて先輩!(“Notice me Senpai!”)」なんていうメイドサービスメニューを発見!た、頼みたい……!

ということで、私たちのテーブルを担当しているメイドさんに「ツンデレ頼める?」と聞いたところ……とても困らせてしまいました(笑)。恐らくほかにメイドサービスを頼む人はいなかったのでしょう。「えっできない!えっどうしよう!」と慌てふためく様子がとてもかわいかったのですが、最近『妖狐×僕SS』を読み返している筆者は「もし蜻さまがいたら調教されそう」などと思っていました。
残念だけどツンデレはお預けか……と思ったのも束の間、担当メイドさんが店長メイドさんを呼んできてくれました。「ツンデレだけを提供することはできないから、よければ一杯サービスでツンデレします!」とのこと、筆者の無茶ぶりで一杯サービスなんて申し訳ないと思いつつ、図々しくもお言葉に甘えてカプチーノを頼みました。
さてさて、どんな感じで来るのかな……とドキドキ待っていると店長メイドがカプチーノを持ってきて乱雑に、でも丁寧に机に置きドイツ語で「お前のために特別に唾入れておいたからな!すぐ片づけるから早く飲めよ!」と……な、なんてツン強めなメイドさんなの!このとき筆者の頭の中では「このメイド、ドS!」と杉田智和さんの声で再生されていました。……ってあれ、デレは?(笑)

帰り際「アレであってた?」と優しく聞いてくれた店長メイドさん。これがデレなのか、そもそもカプチーノ一杯サービスしてくれたこと自体がデレだったのか……。しかし、ツン強めなメイドさんもある特定の層には人気があるはず。店長メイドさんはこの記事を楽しみにしてくれているそうなので、ぜひこれを読んでいたら「次回もツン強めで」とお願いしたいです。
コスプレは家からしていく?撮影よりもパフォーマンス重視?日本とはひと味違う海外のコスプレ文化
「AniNite」で筆者が特に驚いたのは、コスプレ文化の違いです。どのような違いがあったのかも、レポートします。
家からコスプレして行ってOK?
まず日本との大きな違いは、家からコスプレしていく人が多いこと。もちろん会場内に着替えるスペースはありますが、恐らく半分くらいの人は家からコスプレしてきていたのではないでしょうか。
これについては筆者は過去にも、アニメ系イベントに向かうであろうコスプレイヤーたちがいる列車に乗り合わせたことがあるため知っていました。初音ミクやら何やらのコスプレした人々がたくさん乗っている列車は、それはそれはカオスでしたが……。


しかし地下鉄でコスプレした人が乗っていても、周りの人はあまり気にも留めていないようで。これがヨーロッパの個人主義というやつでしょうか。良くも悪くも、日本では考えられませんね。
自分の好きなようにコスプレを楽しんでいる
2つめの違いが自由度の高さ。コスプレするとなると、日本では頭のてっぺんからつま先まで抜かりなくキャラクターになりきるのが普通ですよね。今回のイベントでは、実にさまざまなクオリティのコスプレが見られました。
全身キャラクターになりきったクオリティの高いコスプレももちろん多く見られましたが、衣装だけ着てウィッグ無し、衣装やウィッグはきちんとしてるけどメイクなし、帽子だけなどなど……。各々自由に、自分の好きなようにコスプレを楽しんでいて、正直筆者はとても良いなと思いました。コスプレ衣装を着た子どもも多く見られました。

コスプレとは異なりますが、キツネの耳やネコ耳、尻尾だけを付けて歩いている参加者も目立ちました。そうしたカチューシャなどが売られているお店もありました。まるでディズニーランドのよう……いや逆に、海外ディズニーでカチューシャを付けている人は珍しいそうですが。
ドイツ人の友人に聞いてみたところ「正確にはわからないけど、たぶんコスプレと違って簡単に身に付けられて、非日常を楽しめるからじゃないかな。あと単純にみんなケモ耳が好き」とのこと。……つまり、やっぱり日本のディズニーみたいなことでしょう!



撮影よりもパフォーマンス重視!
筆者が感じた1番の大きな違いは、なんといってもコスプレパフォーマンス!日本だと一般的にコスプレは撮影が主な目的だと思います。しかし、今回イベントに参加してみてわかったのは、こちらでは撮影よりもパフォーマンス重視であるということ。
会場内の舞台ではさまざまな企画が開催されており、コスプレ関連のイベントも多く実施されていました。筆者はてっきり、日本のコミケなどのコスプレエリアで行われている撮影会が舞台上で大々的に行われるような感じかな……と思っていたのですが、AniNiteでのコスプレ系イベントはほぼすべて、コスプレでのパフォーマンスや演劇の披露がメインでした。
舞台上では、『ヒプノシスマイク』の飴村乱数や『風の谷のナウシカ』のナウシカ、『Paradox Live』のアン・フォークナーなどに扮したコスプレイヤーたちが、映像や音楽などと共にキャラクターになりきってパフォーマンスを披露していました。

なかでも驚いたのが、コスプレ演劇。実は筆者、もともと今回のイベントは土曜日だけ行く予定だったのですが、舞台のプログラムを見て次の日の日曜日に「Flying Sushi」という名前のイベントがあることを発見。「えっ!? Running Sushi(ヨーロッパでは回転寿司のことをRunning Sushiと呼びます)ではなく!? どういうこと!?」と頭に大量の?マークが。いやアニメイベントでRunning Sushiもおかしいんですけどね。ということで「Flying Sushi」が一体何なのか確認すべく、急遽日曜日も参戦してきたのです。
そして日曜日、舞台上で始まったのはまさかのコスプレ演劇でした。「Flying Sushi」はアニメ・漫画系コスプレ演劇グループの名前だったのです。会場を飛び回る寿司が見られるのかと本気で思っていたので、少々……いやだいぶ残念ではありましたが(笑)。

どうやらこの劇団グループはオーストリアのアニメ界隈では比較的有名らしく、既存のアニメや漫画、ゲームなどを主軸に独自の演出やユーモアを交えて作られた演劇が評判なんだそう。過去には『ONE PIECE』や『鋼の錬金術師』『犬夜叉』などの演劇を行っているほか、複数の作品を掛け合わせた演劇も披露しているらしいです。
今回のイベントで披露されたのは『ダンジョン飯』の舞台。セリフはもちろん生、映像や小道具、舞台装置を駆使して演劇を繰り広げます。残念ながら筆者は『ダンジョン飯』を観たことがないので舞台の内容に関しては何とも言えないのですが、会場は大いに盛り上がっていました。
「世界コスプレサミット」通称コスサミという名前で呼ばれている「World Cosplay Summit」のイベントもありました。日本でも大々的に開催されているので、ご存知のコスプレイヤーさんもいるのではないでしょうか。
イベント内では各国のコスプレパフォーマンス映像のほか、『逆転裁判』の成歩堂龍一とゴドー検事が舞台上でコミカルな裁判を繰り広げていました。

コスプレの撮影エリアは少なめ。プロに撮ってもらえる? 修理スペースも
日本のコミケなどのイベントでは、基本コスプレエリアが設けられていますが、「AniNite」ではコスプレエリアという明確なエリアはありませんでした。その代わり、小さな撮影スタジオ2つとプロに写真を撮ってもらえるサービスがありました。



撮影スタジオ以外では、会場入ってすぐの開けたエントランススペースや会場内の空いている一角、また会場を出てすぐにある芝生エリアで撮影をしている人がちらほら見られました。しかし撮影エリアが少ない、コスプレだけのエリアがないのは、やはり撮影よりもパフォーマンス重視だからでしょうか。
会場には、コスプレのための道具や衣装を専門の方が修理してくれるブースも。日本のコミケでは「コスプレさいほうばこ」のように自分で軽いお直しを行う場所はあれど、プロ(?)の方が直してくれる場所は基本ありません。これはなかなかどうして、素晴らしいサービスと言えるのではないでしょうか。

日本とは全然違う海外のアニメイベント
今回紹介したコスプレ演劇やメイド喫茶以外にも、チャリティーオークションや剣道体験、コスプレや漫画のワークショップ、ゲームコーナーなどなど……それはもうたくさんの企画が開催されていました。筆者もすべての企画を体験できたわけではないのですが、せっかくなので一部を写真で紹介したいと思います。





あまりの盛りだくさんな内容に、筆者もほぼ一日中会場にいました。きっと3日間連続で来る参加者も珍しくないでしょう。いろんなブースや企画で日本との違いを感じることは多々ありましたが、アニメや漫画など好きなものに懸ける思いに国境はありませんよね。
次に狙うのはドイツかフランスのアニメイベントでしょうか……オーストリアよりも規模が大きいため、さらにいろんな体験が出来るはず!みなさんも機会があったら、ぜひ一度海外のアニメイベントに参加してみてはいかがでしょうか。
©AniManga Austria / AniNite
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